研究テーマの決め方。挑戦的なプロジェクトに飛び込んだ失敗談。

何か凄いことをやりたいと思い、ひたすらインパクトを追い求めた最初の半年。


ラボに配属されてからの半年は「さて何をやろうか」ということをひたすら考えていました。当時自分の頭にあったのは、オリジナリティの高い研究をやる、チャレンジングなプロジェクトをしたい、というかなり青臭いものでした。


様々な文献を漁り、浮かんだテーマを二つほど教授の所へ持っていきました。1つ目は、ラボの研究の延長線上にあるテーマで、2つ目は、自分で考え出した独自のテーマでした。教授が一体どんなリアクションを見せるかわからなかったので、ラボの方針に沿ったテーマを最初に見せて、オリジナルのテーマをオマケとして見せすることにしました。


教授の反応は意外な事に、私が考えたオリジナルなテーマを面白がってくれました。所属しているラボとやや異なるテーマですが、教授のお墨付きを得たことで若干浮かれ気味でそのテーマを進めることに決めました。


このオリジナルのテーマというものですが、今思うとかなり危ない橋を渡っていたことに気づきます。結局どうにかなったので結果オーライではありますが、もし自分が学生を持っていたら次のような事を考慮せよとアドバイスしてあげたいです。



リスクその①:リソースのカバー率



まず私が見えていなかった盲点が、リソースのカバー率です。これは非っ上に重要だと思います。リスクの取り方のなかでも、このリソースの無さは将来的にあまり取りたくないリスクです。


ここでいうリソースとは、マテリアルメソッドに出てくる有形無形の物全てです。例えば...
有形
トランスジェニック動物やモデル動物
実験を行う施設
FCMや電顕、アンプなどの測定装置
ウイルス、抗体、などの薬品、消耗品
グラント(お金)


無形
ラボに蓄積されているノウハウ
他のラボの技術者とのコネクション


指導する立場であれば、どれだけカバーされているか少なくとも文字に書き起こし、何が足りないか客観的に観る必要があると思います。場合によっては経験豊富な人と話し合い、第三者の視点を取り入れるの効果的と思います。

ラボに無いリソースを使いたい場合は強い動機付けが必要です。純粋に大変です。出来ないと言っているわけではなく、同じ労力を投資するなら他に効率の良い投資先がないかを考え、それでも必要な場合初めて取り掛かるべきです。

研究をスムーズに遂行させたいのであれば、これらができるだけ揃っている方が当然有利です。私は測定装置とそのノウハウが無く、一から試行錯誤して学び、揃えなくてはいけないのでかなりの時間と体力を消耗しました。


まだ未経験の学生であれば、ラボに7~8割程のリソースが既にあるプロジェクトがいいのかもしれません。挑戦させるのであれば、指導者にはおそらく何かを立ち上げる能力の高い学生とそうでない学生を見極める能力が問われると思います。経験豊かなポスドクでも5割を下回ると契約期間内に満足のいく成果を出すのは厳しいのではないでしょうか?




リスクその②:オリジナリティを加えるタイミング



私が研究計画を練っている時に見つけた記事に、「研究はただそれだけで既に難しい、博士課程でメソッドの開発は行うな!オリジナリティは一旦忘れろ!」という記事を見ました。


私は耳を貸しませんでした。人がこれから研究するって言ってるのにそんなチャレンジ精神の無いこと言うなよ...と。そんな保守的なことするならそもそも博士なんて取ろうと思わないだろ...と。


リスクと聞くと私のような博打の好きな人はかえって飛びつくかもしれません。「メソッド開発するな!」というのは極端ですが、一方で開発にはとんでもない労力がいるのも事実でした。


リスク大                リスク小


私の場合、研究は3段階に分かれていました。①一段目は測定手法の開発です、②次にモデル動物からデータを取得します、③最後にデータ解析です。


上に図として表しましたが、測定手法は全ての基礎です、いくらサンプルやモデル動物があって、データ解析手法が優れていても、測定機械などの根幹とするものが無ければ何も進みません。


この構造上、オリジナリティを組み込むリスクは段階によって異なります。第一段階でオリジナリティを組むプロジェクトは、そこでコケるとおじゃんです。また失敗でなくとも年数を費やし過ぎれば本来やりたかったことが未完で終わります。私はまさにその状態で、オリジナリティのある測定方法の開発を行い、満足していますが、かなり年数を費やしてしまい、本来やりたかったことを、ある程度見直す必要がありました。


もし自分が次に確実に成果を挙げないといけないという追い込まれた状態であれば、測定方法は安定している物を選ぶでしょう。そしてスパイスが必要なのであれば、サンプルやデータ解析にその労力を注ぎ込みます。




それでも後悔しているわけではない



このようなことを書いていながらも、自分が挑戦したことに後悔はありません。今でも根幹部分にオリジナリティを組み込んだり、リソースの無い状態でも攻める姿勢は研究として間違った態度ではないと信じています。一から色々な事を立ち上げる難しさとしんどさを経験できました、だからこそ見えるものも沢山ありました。


ただ友人、後輩が同じ状況にいるのであれば、その人の得意不得意、適性とタイミングを見極めて、バランスを改善するように助言できたらと思います。


今回はここまでです。それでは~


0 件のコメント :

コメントを投稿

カテゴリー