人見知りの一人ぼっち国際学会:真剣勝負のポスター発表、学会2日目夜


よろしければシリーズとして読んでください。
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ポスターセッションが迫ってきた。

ディナーのあとのトークはすっぽかして、ポスター発表の準備をすることにした。



ポスターセッションはポスドク先候補#1のA教授に会える最大のチャンスである。

事前準備で出したメールの返信ではポスターに来てくれると言っていた。



何回かA教授を学会中に見かけたが、話せる状況はなかった。

学会初日はトイレですれ違った。

トイレに入っていく人を引き留めるのはちょっと気が引ける。

トイレの外で待つのも、「あなたがトイレでどれくらい時間を過ごしていたか知っています」という暗黙の了解になってしまい、変な空気になってしまうことを恐れ、待ち伏せ作戦はやめた。



2日目の午前中にA教授のトークがあったのだが、彼のトークが始まる15分くらい前のRefreshment Breakでくつひもを一人で結んでいる姿を見た。

話しかけるか迷ったが、トーク直前に話しかけても、迷惑だろうなと思い、このタイミングもやめた。



ポスターセッションに賭けることにした。



自分のポスター発表の説明は一応頭の中に入っている。

学会の直前にラボでプログレス発表があったので、良い練習になった。

しかしポスターを使ってそれほど練習をしていない。


ディナーのあと、部屋に戻り、「何をやっているかを大まかに知りたそうな人」用の5分バージョンの発表と「詳細も知りたそうな人」用の15分バージョンを声に出して練習してみた。

15分バージョンはそれほど難しくない。

5分バージョンは難しい。

いろいろと説明しすぎて、短くならない。

とりあえず原稿を書き出してみる。

そして、2行で言っていたことを1行にする。

どんどんそぎ落とす。

ようやく5分くらいのバージョンができあがった。



何回も繰り返し、どちらのバージョンもスムーズに言えるようになった。



人見知りだが実は発表は結構得意なのだ。

人見知りだからこそかもしれないが、話すことが大体決まっていて、話す人と聞く人の役割分担が明確に分かれているシチュエーションは僕にとってやりやすい。

もちろん発表をするときは緊張するが、見知らぬグループの人たちに「さっきまで何話してたの~?仲間に入れて~」とグイグイ入っていくよりは、発表のほうがはるかに楽だ。



しかし、今回はA教授と会えるかもしれないということで、緊張レベルが上がる。



彼には好印象を与えたい。

ポスター発表開始15分前、会場入りする。

人は少ない。

まだ参加者のほとんどは講堂でトークを聞いているのだろう。



「A教授が来てくれますように」と願った。



ポスターの前で小声でもう一回、この会場の雰囲気で練習してみた。

大丈夫そうだ。



ポスターセッション開始時間から5分ほど経ったころに大勢の参加者がやってきた。

周りのポスターに人が集まりはじめている。

さて誰か来るか?




最初に、1日目に話しかけてくれたK君が来てくれた。

K君、君はなんて優しいんだ。

一番最初の説明の機会ということで、ところどころつまづいたが、なかなか上出来に話せた。

K君は学部生だが、研究の内容の大半を理解してくれた。

良い質問もしてくれた。



自分も学部生のころからやりたいことを見つけて、それに向かって努力していたら大学生活も楽しかっただろうな~と思った



K君に対しての説明が最後のほうになったときにA教授が歩いてきた。



目が合う。



「このチャンスは逃すまい!」と思い、一旦K君に、

“I’m sorry, I just want to introduce myself to him.”、

と断りを入れた。



真摯に聞いてくれていたK君には申し訳なかったが、このチャンスを逃すわけにはいかない。



A教授はそこにいる。




“Hi, I'm カメ。Thank you so much for replying to my sudden email. Very nice to meet you.”、と言い、握手をする。


“Nice to meet you too.” とA教授は言った。



K君がまだそこにいる。

「今この教授と話すことは俺にとって、重要なチャンスなんだ。K君、気づいてどっかに行ってくれ」、と一瞬思った。

しかし、学会中優しくしてくれたK君に対してなんてひどいことを考えているんだ、と思いなおして、自分を叱った。



“This is K君”、

とK君をA教授に紹介した。



簡単な自己紹介がK君とA教授の間で行われた。

ちょっと話に間が空いた隙に、

“I’m just finishing up explaining my poster to K君, and then I’d like to explain my work to you”、

とA教授と一対一になれるようなシチュエーションを生み出すことを試みた。



“Yes of course, please take your time.”、とA教授は言った。



ポスターの最後の部分をやや早めにK君に説明して、K君に来てくれてありがとうと言った。

A教授は離れたところからとなりのポスターを見ていた。

どこかに行ってしまう前に急いでA教授を引き戻した。



これでやっとアメリカにわざわざ来たためのシチュエーションが生まれた。





真剣勝負だ。




 “The main goal of my study is to understand how…”、と練習した掴みの部分から始めた。

彼も真剣に僕の説明を聞いてくれて、ポスターのデータを吟味する。

ところどころ、A教授は軽いジャブを入れてくる。


シュッ! 
“Did you try this control experiment?”  


シュッ! 
“Is this significant?”


シュッ! 
“How did you measure this?”



「そのジャブは予測していましたよ」、とジャブの軌道を見極めて、僕はヒョイ、ヒョイ、とかわした。



しかし説明を続けるにつれ、データの弱い部分や説明のロジックがうまくつながっていない部分をめがけてA教授は鋭いパンチを放った。

“If this is what you want to find out, then maybe you should have tried this experiment. Have you thought about this?”



グフッ!

体で受け止めないといけないパンチもあったが、よけられるものは必死でよけた。

なんとか、ノックアウトはされず、最後まで説明することができた。



説明が終わったころには時間の感覚がなくなっていた。

話していたのは10分なのか30分なのか解らなかった。



研究の話が終わり、A教授は“Very nice work”、と褒めてくれた。

研究の方向性のアドバイスもいくつかいただいた。



事前に僕から送ったメールでは来年からポスドクをしたく、A教授のもとで空きがあれば是非検討してほしいとの旨のメッセージを書いていた。



研究の話が無事終わったから、「さ~俺をリクルートしてくれ」、と僕は胸を広げて立っている。



しかしA教授は仕事の話を切り出さない。



自分から仕事の話も切り出せず、当たり障りのない話をしていると教授は、

“Thank you for showing me your work.”、

と言って話を切り上げようとしている。



「おいおいおい、俺を雇ってくれ~!」と思うも、なぜか、「僕はそんなに必死じゃないですよ~」と強がる精神が僕の喉を締めつけた。



最後にA教授は“Let’s talk again later” と言って去っていった。



そうか。こんなところで雇用の話をするのはデリカシーがないのだろうな。



「あとで話して、そういう交渉をするのか?」
と思い、雇用の話を切り出さなくて良かったと思った。



でも、後っていつだよ?



俺はそういうフワッとした「後で人に話しかかける」のは大の苦手なんだ!、と思うも、雇用してもらえるチャンスがゼロではないことに嬉しく思った。



その後もちらほらとポスターに人が来てくれた。

たくさんの人が集まるということはなかったが、2時間ほとんど、話し続けた。



普段ラボではあまり話さないので、一年分の会話を2時間の間にしたように思えた。



疲れた。



だが、自分に課していた最低合格ラインの「A教授と話し、自分のことを知ってもらうこと」は成し遂げることができた。

とりあえず一安心して、部屋に向かった。



帰り道に、「お祝いにビールを一本くらい買ってくか」、と思い、コンビニに立ち寄った。

稲妻マークや熊がひっかいた爪あとのマークのついたエナジードリンクが大量に冷蔵庫に並んでいるも、ビールが無い。

そうか、アメリカのコンビニではビールを売らないのか、と思い、ちょっと離れたスーパーまで歩いてみた。



ビールがあった。

しかし、ビールがある冷蔵庫だけ明かりが消えていた。

嫌な予感がした。

店員さんに聞いてみると、この地域では夜9時にはスーパーなどでアルコールを売るのをやめるらしい。

バーやレストランで金を使えということか。



しかし一年分の会話をしたあとにまた人が大勢いるところに行く気にはなれず、水だけ買って部屋に戻った。

ポスターセッションでがんばったご褒美の、ささやかな一人ビールお疲れ様会はなく、体に疲労感が染み渡るのを感じながら、学会2日目は終わった。



学会3日目午前中の様子はコチラ

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