「博士論文・修士論文が書けない」と思ったら読んでください

僕は自分の博士論文について、ひそかに誇りに思っていることがあります。

それは、「徹夜や過度な夜更かしをせずに博士論文を書き上げた」ことです。

「地味~」と思われるかもしれませんが、僕にとってはなかなかすごいことです。 



大学時代のレポート提出前夜は、「ほぼ必ず徹夜」でした。

博士課程を総括する博士論文を「徹夜せずに」書き上げたことは、自分にとって大きな成長です。



これから博士課程や修士課程の終盤を向かえるみなさんに向けて、また僕自身の頭の整理も兼ねて、大変だった時期に役立ったことをまとめてみたいと思います。




博士課程終盤では「研究者に必要な6つの能力」すべてが必要になってくる


以前、研究者に必要な6つの能力を紹介しました

1.研究テーマを決める能力

2.実験をする能力

3.実験結果を解析する能力

4.実験結果をフィギュアとして創りあげる能力

5.伝えたいことを文章として書く能力

6.フィギュアと文章を校正する能力



博士課程の序盤はじっくりと研究テーマを決め実験に集中することができます。

しかし、博士課程の終盤では、博士論文とジャーナル投稿用の論文を同時進行で書きながら、さらには論文の穴埋め実験も必要になります。

それに加え、卒業後の職探しや新たな研究テーマでのフェローシップに応募もしないといけません。

多くのことを同時進行でタイムリーに進める必要があります。

そのため、上で述べた「研究者に必要な6つの能力」を同時期に発揮することが重要になってきます。



ここでいう"同時期"とは、マルチタスクを意味する"同時"ではなく、ある一定の"タイムスパン(時期 / 期間)"を意味しています。

つまり、卒業までの限られた期間の中で、「研究者に必要な6つの能力」のうち必要な能力を必要なタイミングでバランスよく発揮する、ということです。





博士論文が書けない3つの原因



博士課程終盤、僕は「この実験も必要!あの実験も必要!」と少しでも研究のインパクトを増やそうと奮闘していたので、「博士論文は、実験の合間に書こう」と思っていました。

しかし、いざ書こうとすると「あれ? 前回までどういう流れで書いていたんだっけ?」という確認作業が必要になったり、「えっと、次は何書こうかな〜」と考えているうちに実験の反応が終わり、また実験に戻る・・・という1日を繰り返していました。

「博士論文を書かないと!」

頭の中ではわかっているのに、結局、何も書かずに・・・いや、書けずに終わる日々が続きました。



博士論文の執筆がほとんど進まないスランプに陥り、とうとう「これはヤバイ。何かを変えないと、このままでは本当にヤバイ」と思い始めました。

そしてやっと、「計画性をもって、博士論文に挑むことが必要だ」ということに気がつきました。



このように博士論文執筆のスランプを経験したわけですが、僕が博士論文を書けなかった主な原因は3つあると思います。

1.研究・博士論文で「完璧」を目指していた

2.めんどくさい、とか、苦手だな~と思うことを「後回し」にしていた

3.自分のやる気エネルギーを「無駄使い」していた




博士論文が進まない原因-1.研究・博士論文で「完璧」を目指していた


何事にもベストを尽くし、最大限の力を出し切ることは大切だと思います。

しかし、僕の中で「完璧を目指す」という思考は、「もっと実験をして、レビュワーや博士論文を審査する先生方に突っ込まれるポイントを完全にカバーせねば」という考えにつながっていました。

その結果、実験を優先するばかりで、博士論文を書くことがおろそかになっていたのです。

もしこのままの状況が続いたら、卒業が危ぶまれる事態を自ら招いてしまっていたかもしれません。




対策-1:完璧よりも「成長」を目指そう


博士課程終盤、僕の頭の中には、

「あそこまで研究を進めたいんだ。。。」

「これまでの結果は、俺の実力をちゃんと表していない。。。」

「もうちょっとやれば、すごいモノが見つかりそうなんだ。。。」

という考えや言葉がグルグル回っていました。



今振り返ると、ギャンブルにのめり込んだ人の頭の中みたいです。

客観的に見れば、卒業するために必要なデータはあったのですが、自分ではまだ何かが足りない、もっと必要だ、と思っていました。



「博士論文の出来=自分の価値」のような方程式が自分の中に芽生えてしまい、平凡以下の博士論文を書くことは自分のアイデンティティを脅かすものになっていました。

そのせいで、博士論文に挑戦するのがおっくうになっていたのかもしれません。



そんなとき、過去に読んだ「マインドセット」という本を思い出し、このことが救いになりました。

本では、fixed mindset (硬直マインドセット)とgrowth mindset(しなやかマインドセット)の2つの心の持ちようを紹介しています。

自分自身について振り返ったとき、自分は完全に硬直マインドセットになっていることに気がつきました。

硬直マインドセットでは「テストの点数=一生の評価」と考えがちになるそうです。



例えば、数学のテストで60点を取ったとしましょう。

硬直マインドセットの人は「あ、俺は数学に向いてないんだな」と感じ、数学の能力は伸びるものではない、と考えるそうです。

反対に、しなやかマインドセットの人は、数学の能力は伸ばせるものと考えるため、「今回は結果に繋がらなかったけど、次回はちょっと違う方法で勉強してみよう!」とポジティブに捉えるそうです。



しなやかマインドセットの視点で博士論文に取り組めば、「博士論文を書くことは自分の成長につながる」と考えることができます。

研究結果に関して言えば、「とりあえず博士課程中にできることはした。精一杯がんばった」と自分自身の頑張りを認めてあげることができるでしょう。

そして、「今の実力と運ではこれくらいの結果だったけれど、これから成長し続ければ面白い研究結果とめぐり合えるチャンスはたくさんあるはずだ」と思えたり、「これからも研究者として成長するには、とりあえず博士論文を完成させて卒業することを優先しよう」と考えることができます。



心の持ちようによって、博士論文を書くことは恐れるべきことではなく、むしろ成長のありがたいチャンスと捉えることができるようになるはずです。



マインドセットの本から、当時の僕に必要だったヒントを得ることができました。

そしてそれからは、博士論文執筆をどう自分の成長や学びのチャンスとして活かせるのか、考えを巡らすようになりました。



どうすれば書くことを習慣づけられるのか。

良い文章とは何なのか

博士論文で一貫するストーリーを練り上げるにはどうすれば良いのか。

美しいフィギュアの条件とは何か。

などなど、成長のチャンスがたくさんあることに気づき、たまにはワクワクしながら博士論文を書ける日もでてきました。



そして博士論文を書くことは、実験の面白さとはまた違う快感がありました。

博士論文と向き合う時間は博士論文が進む量とほぼ比例していました。

100文字書けば、博士論文は100文字進んだと言えますよね。

もちろん書き直しや校正はありますが、やった分だけ進むので目に見える達成感があります。



実験では、原因不明の理由で実験がうまくいかなかったり、数週間かけた実験がネガティブデータの山に行ったりで、努力量と成果はほとんど比例していませんでした。

もちろん研究で良いデータを得られると、その分、嬉しさも倍増するので、それはそれでやめられないですが。。。






博士論文が進まない原因-2.めんどくさい、とか、苦手だな~と思うことを「後回し」にしてしまう


博士課程終盤では、手慣れた実験の繰り返しや確認作業が多くなるため、実験にはわりと気楽に取り組めるようになります。

そして何かしらデータが出るので、「アレも知りたい!コレも知りたい!」と欲張りになっていました。

しかし、博士論文が進まずに1日が終わると、お腹のあたりからジワリジワリと恐怖感が沸き上がってくるのが解りました。

同じデッドラインを持つタヌキとも恐怖感を分かち合い、計画的に博士論文に取り組むことにしました。




対策-2:ボトルネックとなっている作業を見極める


まず、この状況でやるべきことは、どの作業がボトルネックになっているかを知ることだと思います。

僕にとって、最も「めんどくせ~」と感じるのはフィギュア創りで、その次にライティングです。

実験や文章の校正作業は、比較的楽です。

また、実験解析も難しいことはしていないので、それほど苦になりません。

自分にとってのボトルネックはやはり、フィギュアを創ること、そして書くことでした。



対策-3:苦手なタスクに挑戦しやすい「時間」と「空間」を見つける


次に僕がやったのは、フィギュア創りとライティングに取り組みやすい「時間」と「空間」を見つけ出すことです。



おそらく朝型の人と夜型の人では、エネルギーレベルの高い時間帯が違うと思います。

僕の場合、最もモチベーションが高いのは朝です。

エネルギーレベルの高い時間帯なら、難しいことにも挑戦できそうな気がするので、僕は朝の時間帯を最も面倒に感じる博士論文の執筆やフィギュア創りに充てました。 



タスクに適した時間を見つけたら、次は空間です。

苦手なフィギュア創りやライティングをするのに、僕は図書室を選びました。  

(教授にはサボってると思われないよう、図書室で作業をしていることをあらかじめ伝えておきました。うちは放任ラボなので、わりと自由にラボを行き来できます) 

図書室を選んだ理由は、実験場所と離れているからです。 

その背景は「(フィギュア創りやライティングよりも)実験がやりたい!」という思いを断つためです。



人間の脳は、楽なほうに逃げようとします。

実験スペースの隣で苦手なフィギュア創りをしていると、「あ! そういえば、あの実験やらないと!」などと理由をつけて、思わず逃げ出しそうになってしまいます。

図書室では「いやいや〜、実験室まで遠すぎるでしょ」とすぐにあきらめがつき、目の前のタスクに集中できます。 



図書館で同じように黙々とタスクに集中している人がいると、切磋琢磨的に良い刺激をもらえるので、同じデッドラインを持つタヌキやラボメンバーにも声をかけ、一緒に頑張りました。





博士論文が進まない原因-3.自分のやる気エネルギーを「無駄使い」していた


今だからこそ言えることなのですが、当時の僕が実験の合間にライティングやフィギュア創りをしようとしていたこと自体、無謀だった!ということが解ります。

苦手なことに挑戦するには、膨大なやる気エネルギーが必要ですよね。

実験の合間にライティングをするのは、僕にとって至難の技でした。

「ライティングをやらないと~。う~ん。。。やっぱ、ツイッターチェックしよ。。。いやいや、ちゃんとしよう。よっこいしょ。。。」と、膨大なやる気エネルギーを消費していました。




対策-4:めんどくさい作業は最小限に


効率良く1日を過ごすため、やる気エネルギーをできるだけ消費しないようなスケジュールを組むことにしました。

僕の場合は、1日1回エネルギーが高い朝の時間に苦手なライティングの作業をスタートする、というものです。

1度スタートすれば、続けることはそれほど苦にはなりません。



しかし、それでも1~2時間しか続かないので、そのタイミングでフィギュア創りなど別のタスクにスイッチします。

エネルギー切れとなったら、このタイミングでランチを取り、午後は比較的簡単なことに取り組む、というスケジュールを組みました。




対策-5:自分の脳にとって「心地よい方法」を探す


午後の時間は、実験と校正の時間に充てました。

博士課程中、繰り返しやった実験は体に染み込んでいるので、ほぼ何も考えなくてもできるようになっていたからです。

実験中には好きなポッドキャストや音楽を聞きながら、できるだけリラックスした状態で取り組めるよう工夫しました。



実験の合間に僕がよくしていたのは、校正です。

新しい文章を書くほどのエネルギーはないですが、文章を校正することはできます。

僕が好きなのは、PC画面上で校正するのではなく、昔ながらの、印刷して紙で校正することです。

紙の上で赤ペンで添削をし、その後、PCに反映させます。

ステップが多く、一見すると効率が悪そうですが、僕の脳にとっては最も楽な方法です。 

自分にとって楽なタスクなら、マルチタスクも不可能ではありませんよね。



同じタスクをするにしても、「やりにくいな〜」と負担に感じる方法よりも、自分の脳が喜ぶ方法を見つけ出すことが良いと思います。

そのほうが長期的には効率が良いですし、エネルギーを保ちながら取り組めますよね。




まとめ&最終手段、対策-6:ちょっと休んでみる

このようになんとかやりくりをしながら、博士論文を書き上げました。 



僕が実体験から学んだことは、

1.研究・博士論文は、完璧よりも「成長」を目指し、できるだけ気楽に取り組む

2.めんどくさい、とか、苦手だな~と思うことは、モチベーションが高い「時間」に、ワークしやすい「空間」でやる

3.自分のやる気エネルギーを無駄使いしないようなスケジュールで「計画的」に1日を過ごす

ということでした。



しかしそれでも、論文が全く書けないと感じる時期やフィギュア創りが進まず焦る時期もありました。 

そんな時には「脳が疲れているんだな」と思って、少し休みを取ってみることも必要だと思います。 

個人的にしていたことは気晴らしにAmazon Prime Studentでバチェラー・ジャパンを夕食後に1話見ていました。

オキシトシンなどの恋愛ホルモンが分泌されて、少しは心の安定につながったと思っています。




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博士論文は大学のレポートとは違い、心身ともに「安定したエネルギーを保つこと」がポイントです。


各タスクに適した時間と空間を味方につけ、自分なりのスケジュールを考えてみると、ちょっとずつでも前に進めるはずと僕は思います。

今回の記事が少しでも、博士論文や修士論文が書けないと悩んでいる方のヒントになりましたら幸いです。







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研究の進め方や論文の書き方が
具体的に書かれていて、心理的につまずきやすいポイントにも触れているので、自分にとってはすごく参考になりました。



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博士論文を書くときもこの本に書かれている工夫を実践しました。



 



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2 件のコメント :

  1. ちょうど博論の山を迎えており(2週間後に提出予定で),一通り書き終えたものの修正の嵐で非常にメンタルが辛い状況で,研究意義や研究能力に疑問符しかつかない状況でした。しかし,他のページを含めブログを拝読し,研究が好きだった気持ち,他の仕事は考えられないことなどを思い出し,もう少し頑張ってみようと思えました。ありがとうございます。

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    1. コメントいただきありがとうございます!僕も未だに研究者としての適性や能力などに疑問を持ちながら奮闘しています。しかし、研究をする意義や挑戦を続ける充実感などを感じながら研究を楽しめるようにしています。最近はブログの記事更新が遅くなってしまいましたが、今後もポスドクとしての研究スタイルなどについて書き続けようと思います。お互い研究を楽しみながらがんばりましょ~!

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