学会1日目はコチラ
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学会1日目は人見知りモード全開で他の人に話しかけることができなかった。
時差ボケで夜もうまく眠れず、疲れが取れないまま、2日目が始まった。
学会2日目は僕のポスター発表がある日だ。
ポスター発表は夜8時から10時までの2時間。
それまでの時間はトークがあった。
朝起きて、「今日こそは積極的にコミュニケーションを取るぞ」と思ってみるも、その思いに力が全く入らなかった。
1日目に学会主催の食事から逃げたから、逃げの姿勢が定着してしまった。
午前中のトークに行ったが、誰とも話せなかった。
ランチはまた学会主催のものには行かず、自分の部屋に戻り、冷蔵庫に入れていた昨晩の残りのサンドウィッチを食べた。
ランチに行きたくないわけではないが、行く気力が沸き起こらない。
トークが再開するまでに時間があり、ベッドの上で寝転び、天井を見上げた。
眠れなかった昨夜とは違い、スーッと眠りについた。
寝たのは30分くらいだったが、起きたときにはスッキリしていた。
部屋がすごく静かだった。
おそらくこれまでは自分の心の声がうるさくて、部屋がすごく静かだったことに気づかなかったのだろう。
体を起こしてみると、慌てる気持ちや不安はあまり感じられなかった。
寝ぼけているせいだろう。
しかし、燃えているろうそくから出てくる煙のように、スーッと湧き上がってくる感情があった。
むなしさだった。
「なんのためにここまで来たんだ?」
たくさん、会ってみたい人が数百メートル離れたところで食事をしていて、僕もその場に行く権利があるのに、あえて行っていない。
朝起きたときとは違い、今回は力強く、「もう学会主催の食事からは逃げない」と心の中で誓った。
「そして、自分から人に話しかける」
午後のトークに向かった。
今回はある作戦を実行してみる。
トークのときに一人で座ってそうな人の近くに、一席空けて座ってみる。
そしてトークが始まる前とか、refreshment breakに行く前に気軽に(ガチ緊張で)話しかけてみる。
会場入りする。
周りを見渡す。
前のほうは結構埋まっている。
大御所たちがウヨウヨいる。
前はハードルが高すぎる。
後ろのほうを見てみる。
ポツポツと人が座っている。
ほとんどの人は2人か3人のセットで座っている。
しかし一人で座っている人がいた。
女性。ヨーロッパ系?ポスドクっぽい。猫をひざに置いてお茶をすするのが好きそう。
一つ席を空けたところには自然に座れる。
とりあえずそこに座った。
トークはほとんど頭に入ってこない。
「トークなんてどうでもいいんだ。どうせほとんどの人は論文にした研究のことを話しているから面白そうならあとで論文を読めばいい。」、とひらきなおる。
そしてコーヒーブレイクに突入。
「待ってました~」
少し席に残ってみる。
ヨーロッパ系女性も席でゆっくりしているようだ。
もうこのチャンスしかない。
「学会が始まってからず~っと誰かに話しかけてみたかったんです」、という感情を見せないようにして、「俺はいつもこうやって学会でフレンドリーに周りの人とコミュニケーションを取っているんだ」という雰囲気で、
“Hi, are you enjoying this meeting?”、
と話しかけてみた。
「い、言えた~!」と自分で思いつつも、高ぶる気持ちが相手に伝わらないように興奮を抑えた。
しかし彼女はちょっと考え込んでいるようだった。
僕のフレンドリーな演技がぎこちなく、変な奴と思われてしまったか?
永遠と感じられる沈黙を彼女はようやくこわしてくれた。
“I’m still a bit tired…”
そうか、彼女は本音を言うか、言わないかで迷っていたのだ。
僕が学会を超楽しんでいる奴の演技をしてしまったせいで、まだ疲れが取れていない彼女はおそらく「自分も楽しんでますよ」と言うか、本音の “I’m still a bit tired” を言うかで迷っていたのであろう。
「俺も心身ともに疲弊していますよ~」と思い、
すぐに自分のアホくさい演技を捨てた。
“I came from Japan, so I understand your pain”、
と共感を示した。
Cさんはドイツ出身で今はイギリスのラボで働いているポスドクだった。
Cさんは博士課程では違う分野の研究をしていたらしく、今はこの学会の分野の研究に挑戦していて、一人で来ていた。
少し話した後、一緒にコーヒーをもらいに行き、コーヒーエリアで話を続けた。
学会会場の外で景色を楽しむフリをする必要がない自分を少し誇らしげに思った。
トークがまた始まると、安堵感に包まれた。
「できた~。K君、お前に追いついたぞ!」と昨日話しかけてくれた学部生に謎の闘争心を沸かしていた。
本当に自分に呆れる。
だがこれは自分にとって大きな一歩だった。
午後のトークは終わり、次はディナーだ。
本来ならさっき出会ったCさんと行けば一件落着だった。
しかし、Cさんも一人で来た学会で疲れているのか、ディナーが始まる前のトークで講堂から出て行ってしまった。
気合いを入れなおさねば。
学会の食事からは逃げないと誓った。
学会の食事処で一人で食べる覚悟はできている。
自分の部屋で食べていたら確実に一人飯だが、学会の食事処で食べれば、わずかながら他の人とコミュニケーションをとれる可能性がある。
「結果がダメでも挑戦し続けることが重要なんだ!」、と少年サッカーのコーチが言いそうなことを自分に言い聞かせてみた。
僕はため息をつこうとしたが、呼吸が浅く、うまくため息をつくことすらできなかった。
学会の参加者たちはトークが行われていた講堂から、アフリカ動物の大陸大移動みたいに、同じ建物の中にある食事どころへとゆっくり移動している。
僕もその群れの中にいる。
しかし群れの中では参加者たちは小さいグループに分かれていて、グループ内で会話が行われている。
遠い上空から見れば僕はちゃんと群れの中にいる。
しかしだんだんズームインしていけば、僕が一人だということがはっきり解るだろう。
神様が老眼になっていないことを願う。
僕は群れの中にいるようで、一人ぼっちなんだ。
使者を送ってくれ!
僕の後ろには若手女性教授が3人いた。
3人は“#MeToo”のパワハラ、セクハラ問題で盛り上がっていた。
“The chairperson of the search committee asked the candidate if she was married.”、
“When I was a student, my advisor tried to kiss me!”、
などと目撃や体験したパワハラ、セクハラのエピソードを共有し合っていた。
やはり世界中でパワハラ、セクハラ問題はいろんなところで起きている。
「世界の偉い人たちよ、しっかりしてくれ。あなたたちのせいで、僕は背後のグループに話しかけずらくなってしまっているじゃないか。」、と僕は嘆いた。
僕が自分勝手なのはわかる。
パワハラ、セクハラ問題は重大だ。
しかし、今、僕は夕食を一緒に食べてくれる人を探しているのだ。
パワハラ、セクハラ問題の会話に僕が割って入っていくのはちょっと壁が厚すぎる。
ビュッフェで食べ物が置いてある場所に着いた。
すると少し前のほうでK君の姿が見えた。
「チャンスだ!」、と思い、食べ物をすくいながら、彼がどの方向へ行ったか見失わないようにした。
自分の食事プレートを盛ってから、K君を最後に見たあたりに行ってみた。
いた。
K君はラボの同僚らしき人たち数人とどこに座るか決めているみたいだった。
アドレナリンが僕の胸のあたりからジュワ~と出てきた。
そのグループに突入して、K君に挨拶をして、
“Is it OK if I join you guys?” と聞いてみた。
K君が答える前に、顔半分が髭で覆われているフレンドリーな兄ちゃんが、
“Yeah, come eat with us!”と言ってくれた。
助かった~。
K君の仲間たちはD先生の博士課程学生やポスドクだった。お互いの大学のこととか、研究の大変さ、大学院生の悩みなどを話し合った。
大学院生のMさんから、
“Are you the only one from your lab at this meeting?”と聞かれた。
どう返すか迷ったが、
“Yes, it’s so lonely!”、
と 笑いながら本音を言ってみた。
Mさんは、
“If I came here alone, I don’t think I would talk to anyone”、
と一人で学会に来て、見知らぬ人たちと食事をしている僕の勇気を称えてくれた。
前回の学会ではまさにMさんが言ったように、僕は誰とも話さなかったことを思い出した。
Mさんの言葉にジーンと来て、この複雑な気持ちをどう表せばいいのか考えていると、フレンドリーな髭兄ちゃんが、
”No way! You are always talking to everybody at meetings!”、
とMさんにツッコミを入れた。
僕はMさんの言葉を真剣に受け取ったことに対して恥ずかしく思い、苦笑いをしながら次の話題を待った。
しかし、Mさんも一人で学会に行くことに対する恐怖心が少なからずあるかもしれないということを知るだけで、心が楽になった。
食事が終わると、何人かは今夜、僕のポスターに来てくれると言ってくれた。
嬉しかった。
しかしポスターの話題で思い出した。
今夜は僕のポスター発表だ。
予定通り行けば、この学会での最大のミッション、A教授と会うチャンスが訪れるはずだ。
学会2日目、ポスター発表の出来事はコチラ
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