飛行機で自分の席を見つけたときには、すでにおじさんが隣の中央席に座っていた。
おじさんは、僕たちが共有するひじかけを「俺のもんだ」という雰囲気で二つのひじかけを使って堂々と座っていた。
「僕もこれほど堂々とできればなぁ」と思いながらやや通路よりに自分の席へと落ち着いた。
今回の学会は大学院生として最後の学会になる可能性が高い。
来年の今ごろには卒業していたいから、学会が終わってからは実験、論文、職探しのトリプルパンチに追われていることだろう。
現実的に考えると卒業するまでは学会に行っている余裕はなさそうだ。
ちなみに僕は学会が苦手だ。
良く知っている人と話す時でも手汗がジワリと出るほどの人見知りだからだ。
エレベーターと階段があれば、階段を選ぶ。健康のためではなく、他人とエレベーターの中で話すシチュエーションを想像すると怖くなってしまうからだ。
僕にとって学会というイベントは三日間、降りられないアトラクション系の絶叫エレベーターに乗っているようなものである。
さらに今回の学会では自分のラボから行くのは僕一人ということで人見知りにとってはハードルが高い。
食事タイムに盛り上がっているグループの中にグイグイと入っていかないと、寂しく一人で食べることになってしまう。
果たして勇気を出せるのか。
自分の研究に興味を持ってもらえるかも心配ごとの一つだ。
自分のポスターに誰か来てくれるだろうか。
来てくれてもデータの弱い部分をすぐに気付かれて、研究を否定されたらどうしようなどと考えてしまう。
学会のことを考え始めるとネガティブなことばかりが頭をよぎる。
学会をネガティブに考えてしまう理由はおそらく前回の初めての学会での失敗だろう。
自分の研究分野とドンピシャに合わない学会に、比較的近場という理由で行ってみた。
そうすると当たり前だが、ポスターにはほとんど誰も興味を示さない。
食事のときは自分のラボの人と食べるか、学会会場ではないところで一人で食べていた。
そのせいで他の人との繋がりはあまり増えなかった。
話したかった先生とも話せなかった。
教授たちは大抵、教授同士で話している。
その中を割って入っていくのは至難の業である。
そのような失敗から、今回はリベンジするぞという想いで、学会を有意義なものにできるように準備してみた。
今回は自分の研究分野にドンピシャの学会に行く。
これでポスターに来てくれる人が多くなるはず。
議論も前回の学会よりは盛り上がるだろう。
今回はもっと積極的に他の人に話しかける。
繋がりを増やすことを意識する。
コミュニケーション力について書かれている本を読んでみた。
僕がテレビを見ていて一番すごいと思った会話力の持ち主はアナウンサーの安住紳一郎さん、そして王様のブランチのリポーターとして活躍した鈴木あきえさん。
二人とも話すことと聞くことのバランスが絶妙で、相手の言ったことを受け止め、気遣いながらその場に合う面白いコメントや深堀りするクエスチョンを聞いて会話を展開していく。
手持ちの鈴木あきえさんの「誰とでも3分でうちとけるほんの少しのコツ」を読み返してみた。
話しかけるということの大切さ、そして話しかける勇気を少しいただいた。
飛行機の中で読むために人見知りを(ほぼ?)克服した若林正泰さんの「社会人大学人見知り学部卒業見込」を買った。
人見知りを克服するための挑戦を面白いエピソードを交えて書かれていて、僕も挑戦し続ければ克服できるのではないのだろうかとわずかな希望の光を照らしてくれた。
そして今回はA教授に学会開始一週間前に「できれば学会でお話しをしたいのですが」というメールを送ることにした。
なぜA教授と話してみたいかというとポスドクとして働きたいラボの一番候補の教授だからだ。
なんとかこの教授と話してみて、自分のことを知ってもらいたい。
この学会に行く最大の理由と言っても良い。
まずはメールを書かないといけなかったのだが、サラッとしたメールを書くか、本気度120%のメールを書くかの2択で迷った。
本気度120%のメールを書けばめんどくさい奴だと思われてしまう可能性があるが、サラッとしたメールだと無視されやすくなる気がする。
考えた末、めんどくさい奴と思われることを覚悟して、無視できないメールを書くことにした。
ノーベル賞受賞者の書いたアドバイスによるとポスドク先に応募メールを書くときにはメールに履歴書を添付しただけでは他のみんなと一緒になり、無視される可能性が高いという。
他の人より本気度を示すためにはポスドク先で何をしたいかを説明するresearch proposalを加えると良いらしい。
短いresearch proposalを書くくらいなら自分にもできる。
やってみたい研究アイディアはExcelに書き留めているのでアイディアには困らなかった。
ストックしていたアイディアで一番A教授のラボに合ったテーマを選び、大学のレポート感覚で1ページのresearch proposalを一週間ほどかけて書き上げた。
そして学会開始一週間前にメールを送った。
念のため、A教授の秘書さんのメールアドレスも研究室ウェブサイトに載っていたので、秘書さんもCCした。
メールの内容は、
- 自己紹介
- 現在の研究内容
- なぜ教授の研究室に興味をもったのか
- 来年卒業予定なのでポスドク先を探していること
- 来週の学会で会いたいということ
- ポスターに来てくださいアピール、
- 興味があればCVと短いresearch proposalを添付しております、
教授からすればこんなに送りつけられてドン引きするだろう。。。
でも無視はできないはず。これで無視されたら僕に全く興味がないことがわかって僕もあきらめられる。
送った数時間後に、A教授からメールが返ってきた。
“Your PhD project and proposal are very intriguing. I would be delighted to talk to you at the conference…”
「お~、釣れた~!!」と思い、その日の実験には手をつけられなくなった。
妄想も膨らみ、A教授のラボがあるドイツの町をgoogle mapで観光していた。
しかしよくよく考えてみると、このような教授は学会中忙しい場合もあるし、自分の発表の日だけ来て、すぐ帰っちゃう場合もある。
なんとしてでも会わなければ。
この時点で僕はこの学会の最低合格ラインを自分に課した。
それはA教授と会って、自分のことを知ってもらうこと。
これができれば今回の学会は自分の中では合格とする。
今の自分ができる準備はした。
さて、どうなることやら。
中央席で二つのひじかけを堂々と陣取るほどの度胸は学会中に出てくるだろうか。
カメの学会1日目の出来事はコチラ
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下記の本では学会のポスター発表で使えるフレーズがたくさんまとめられています。学会中、手元にあると安心できると思います。
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