学会の出だしは理想的ではなかった。
アメリカに入国する際の列が永遠と続き、乗り継ぎの便まで2時間あったにも関わらず、搭乗に間に合わなかった。
次の便に変更をしてもらえたが、その便も遅れ、学会開催地に昼すぎに着くはずだったのが深夜になった。
いつもなら学会が始まる前日は休む時間、会場の下見、宿の周りを散歩したりしてその場の雰囲気を感じとり、心を落ち着かせる。
しかしこのような下見はできず、疲れも取れないまま学会は翌日の午後に始まった。
今回の学会の最優先事項はポスドク先候補#1のA教授と会って、自分のことを知ってもらうこと。
その他、この学会では前回の学会のリベンジとして積極的に他の人とコミュニケーションを取ってみたい。
学会初日、午後からトークが始まった。
一番手のトークはKeynote Lectureで大御所の先生が話した。
僕は後ろのほうで一人で聞いていた。
他の大御所先生たちも順番に話していた。
しかし時差ボケで何も頭に入ってこない。
ボーっとしているうちにRefreshment Breakに突入した。
「おっ、そういえば他の人に積極的に話しかけることを目標にしていたんだ」、
と思い出し、コーヒーエリアに行ってみた。
しかし、もうすでにたくさんの円陣ができており、再会を喜ぶ声や仲間同士でさっきのトークの内容を確認し合っているような声が耳に入ってくる。
学会の事前準備で読んだ本の著者、鈴木あきえさんの声が聞こえてくる。
「誰でもいいから、笑顔で自分から話しかけてみて。」
「よし!」と思い、周りを見渡す。。。
話しかけられそうな人は見あたらない。。。
「今は時差ボケで疲れているから」と思いなおし、カメが頭を甲羅に引っ込めるかのように僕は会場の外へと逃げ出した。
あきえさん、ごめんなさい。。。
「やっぱ、俺、全然変われね~な~」と思いつつも、外の天気はすばらしく気持ちいい。
太陽が「またチャンスは来るよ」と言うかのように、僕を慰めてくれた。
会場のすぐ外には大きな湖がある。
ヨットや小さい船が、僕の心の嵐の影響を全く受けず、ゆったりと浮かんでいる。
「僕は初めて見るこの美しい景色を楽しんでいるのであって、話し相手に困っているのではない。」という強がりを背中から学会会場の参加者たちに向けて発信した。
背中から発信したメッセージはガラス張りの会場の中まで届いたのか、学会参加者っぽい人が近づいてきた。
外国人女性、少し年上か?金髪にジーパンでアメリカンな感じ。毎日スタバに通ってそう。
「これはチャンスか!」と思いきや、彼女はiphoneで何かメッセージのやり取りをしている。
さてどうする。
話しかけるか。否か。
“Are you enjoying this meeting?”と事前に決めていたフレーズで話しかけようと思ったが、「メッセージ中に邪魔してはいかん」という言い訳が勝り、声がけはゴクンという音を立てて、おなかの中で消化された。
それから数分は同じ場所でメッセージをしているようだったが、一回引っ込んでしまった言葉はもう蘇らない。
「やっぱダメか~」と思いつつ、学会会場に戻ろうとしたが、トークが再開するまでにまだ時間はある。
「もう少し景色を楽しむフリでもするか」と思い直し、湖に浮いているヨットに目を向け、平常心を装った。
そうしているうちにもう一人、やってきた。
アジア系男性、若い。黒縁メガネにちょっと長めのもみあげ。
相手も僕のことを意識している空気を感じる。
ま、まさか同志か?
一人で国際学会に来て、話し相手を探しているのか?
「よし、話しかけてみよう」と思うも、ちょっと距離がある。
モジモジしているうちに相手のほうから、緊張ぎみだが元気の良い声で、“Hi!”と僕に言った。
「お~それがお前の声のかけ方か。ストレートでいいね~。」と思い、ちょっと間を置いて、“Hi, are you enjoying this meeting?” とさっき言えなかったことを言ってみた。
なんとK君はアメリカの大学で留学しているマレーシア人の学部生で、ラボメンバー大勢と来ていた。
ラボメンバーと来ていたにも関わらず、積極的に他の人と話そうとする意欲がすばらしい。
社会人も経験して博士課程の終盤を向かえている僕よりも度胸がある。
「もうちょっとだけ時間があれば、俺から声をかけていたんだ!」と思いつつも、僕は自分から声をかけられなかったことに対して後悔した。
そして自分の精神面の成長の乏しさに呆れた。
しかしそのような思いはとりあえず置いておき、念願の会話に集中した。
偶然にも彼のボス、D先生は唯一この分野で少しは自分と縁がある先生だった。
D先生の指導スタイルやどのような研究がラボで進められているかについて聞けて楽しかった。
僕の研究にも興味を持ってもらえた。
まだまだ聞けることや話せることはあったが、トークが再開する時間がすぐにきて、僕らは学会会場に向かい、離れた別々の席へと戻った。
その後のトークは落ち着いて聞くことができた。
しかし先ほどのK君とのやりとりで何かがひっかかった。
ちょっと考えたらすぐに思い出した。
自分のコミュニケーションに対する度胸が学部生のものよりも乏しいという事実と向き合うことを忘れていたのである。
「このままじゃ誰にも話しかけることができなかった前回の学会と一緒だな。」と思い始め、ネガティブな考えが僕の頭の中を支配した。
その夜のディナーは学会主催のものに行く気力はなく、近くのフードスタンドでサンドウィッチを買って、自分の部屋に逃げ込んだ。
「そんなにお腹が空いてないから」と自分に言い聞かせ、なんとか自分の訳のわからんプライドを守ろうとした。
実際にお腹はそれほど空いていなかった。
サンドウィッチも半分くらいしか食べなかった。
しかしそれは学会ディナーに行くこととは関係ない。
ただの言い訳だった。
このままでは誰にも話しかけることができず学会が終わってしまうのではないかと心配しながら、翌日のポスター発表の不安を抱え、時差ボケでうまく眠れないまま学会1日目は終わった。
学会2日目の様子はコチラ
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