BOOK OFFに行くと、いつも探してしまう種類の本があります。
それは「文章の書き方」や「文章力の鍛え方」について書かれた本です。
現在は、文章とは無縁と思われがちな科学研究者として働いていますが、研究の仕事も「論文」という媒体で文章を使って自分の発見を伝えます。
論文の「ストーリー」は重要であり、どのような位置づけで自分の発見を表現するかによって、発見の印象が変わってきます。
良い論文には、良い小説と同じように、面白いキャラクターが登場し、引き込まれるようなストーリーが描かれています。
この場合「キャラクター」は研究者自身ではなく、生物であったり、材料や分子の場合もあります。
例えば、iPS細胞の論文では4つの分子(山中ファクター)が「キャラクター」であり、山中ファクターが大人の細胞を初期化して、多能性を持つiPS細胞に変身させるというのが「ストーリー」です。
科学研究者が論文を書くときも小説家から学べることはたくさんあると思います。
そこで今回は、「文章の書き方」や「文章力の鍛え方」について書かれたおすすめの本を紹介します。
文章を書くこと(ブログ・論文・計画書など)が仕事の一部となっている職業の方に刺激になると思います。
僕がおすすめする10冊を次のカテゴリー別に紹介します:
・文章を書く技術
・書くこととの向き合い方
・英文を上達したい人のため
・理系のため
文章を書く技術に関する本
1.売れる作家の全技術
著:大沢在昌
おすすめ度:★★★★★
たくさんの文章に関する本を読んだ中で、この本が最も満足感を与えてくれました。
「これを知りたかったんだよ」、とボソボソ呟きながら読んでいました。
この本は大沢在昌さんが作家志望の方に向けて講義をしたときの内容をまとめた本です。
作家志望の生徒さんたちが課題として書いた文章を例文として見せ、「ここはこうすればよかった」とか「この物語はこれが足りなかった」などとプロの視点からのアドバイスが記載されています。
大沢さんがご自身の手の内を明かしてくれるような本です。
もちろん手の内を明かしてくれたから誰でもプロの作家になれるわけではありません。
例えばマジシャンが種明かしをしてくれたからといって、僕がマジシャンのように観客を魅了しながらトリックをできるようになれるとは思えません。
でも種は知りたい。
その種を教えてくれるのがこの本です。
生徒さんが課題として書いた作品の全文が載っていないのが唯一の残念だったところですが、それでも読む価値は十分あります。
印象に残った部分を少し紹介します。
強いキャラクターの作り方
・キャラクターがストーリーを支える。
・物語りを書いて「う~ん、何かイマイチだな」と思ったときは、問題はストーリーかキャラクター。もしもストーリーがダメなら、ストーリーや設定を考え直せば良いだけ。もしもキャラクターがダメなら、新しく全部考え直す必要がある。要するに、ストーリーよりもキャラクターが重要。
・人物を描写するときは「雰囲気」を伝える。「Aは30代の男だ。」よりも「Aは休日にエプロンを着けて家族のために料理をするような男に見えた。」のほうがキャラクターの性格が伝わる。
・全てのキャラクターには、登場する役割が必要。
・書くか書かないかは別として、自分の中でキャラクターの細部まで作り上げていく。
・人間観察で想像力を鍛える。
ストーリーの作り方
・ストーリーには2種類ある:(1)謎解きか(2)主人公に変化を読ませること。
・理想的には主人公に変化を読ませて、最後に謎が解けるストーリー。
こんな人におすすめ:
・作家志望の方
・物語を書いてみたいと思う方
・作家の技術の種明かしを知りたい方
・とにかくおすすめです!
併せて読みたい:
2.ミステリーの書き方
編:日本推理作家協会
おすすめ度:★★★★☆
この本は様々なミステリー作家さんが自身のミステリーの書き方についての考えをまとめた本です。
いろんな書き方や考え方に触れられる良書です。
この本でも大沢在昌さんのチャプターがありますが、他の作家さんのセオリーからも学べるので、「いろんなやり方があるんだな~」と思えるような本です。
この本の中で作家さんを対象とした様々なアンケートがあるのですが、そのうちの一つが「理想とする作品を教えてください」という質問です。
「作家さんが理想とする作家さんや作品」って気になりますよね。
そのアンケートの答えで度々挙がった作品が松本清張さんの点と線という本でした。
早速読んでみたら、ストーリーが最後にピシッと決まって、「なるほど~」というようなミステリーでした。
ストーリーの付箋や構成を意識しながら読むと勉強になると思います。
書くこととの向き合い方に関する本
3.走ることについて語るときに僕が語ること
著:村上春樹
おすすめ度:★★★★★
4.職業としての小説家
著:村上春樹
おすすめ度:★★★★☆
この2冊では、村上春樹さんが「書くこと」をどのように生活の一部にしているのかを学ぶことができます。
たくさんの小説を書いている村上さんなら、1日中文章を書いていると思うかもしれませんが、そうではありません。
村上さんは朝5時ごろからお昼まで書き続け、午後の時間は運動や趣味の時間として過ごしています。
村上さんにとって、体を動かすことや、音楽を聴いてリラックスする時間なども小説を書くために必要な時間と捉えられているようです。
ただひたすら働くのではなく、オン・オフの切り替えをはっきりさせることで仕事の効率も上がるということだと思います。
こんな人におすすめ:
・毎日あるいは数日置きに、少しずつでも「書くこと」をしたい方(習慣として取り入れたい方)。
・「たくさん書くためにはたくさん時間をかけないといけない」と思い込んでいる方。
・走ることや運動が好きな方は、「走ることについて語るときに僕が語ること」がおすすめです。
・村上さんの本が好きではない方でも、このようなエッセイ本は好きになれると思います。
5.On writing 翻訳版:書くことについて
著:Stephen King
おすすめ度:★★★★★
この本の前半はKingさんの自伝で、作家になった経緯について書かれています。
後半はもうちょっと具体的にKingさんが良いと思う文章についての記述があります。
実際に、自身の文章の校正前と校正後の比較などもあり、非常に参考になります。
6.War of art 翻訳版:やりとげる力
著:Steven Pressfield
おすすめ度:★★★★☆
この本は、「書かないといけないけど書けないとき」に読むことをおすすめします。
まるでコーチが自分を奮い立たせるためのスピーチを書きとめてくれたような本です。
博士論文の書き始めで、先の見えない状況のときに読んだらやる気が沸いてきました。
こんな人におすすめ:
・「あとでやる」と言いがちな方。
関連のおすすめ:
waitbutwhyというブログのprocrastinationの記事もおすすめです。
英文ですが、人はなぜ「あとでやる」と思いがちなのかを面白おかしく説明してくれます。
英文を上達したい人
7.On writing well
著:William Zinsser
おすすめ度:★★★★★
この本は僕が英文を書くときに机に置いている本です。
草稿ができて、推敲をしているときにパラパラと読みながら推敲をすると様々な視点から英文を書きなおすことができます。
この本を読んで、このようなフィルターを通すことが重要だということに気づきました。
1.そもそもその文章必要?
2.一つの文章で一つのことを言う
3.passive よりもactive voiceを使う
4.機能していない副詞や形容詞を抜く
5.より簡単な代用できる言葉はないか?
こんな人におすすめ:
・英文をもっと解りやすく書きたい方
・英語で論文を書かないといけない方
8.Elements of style
著:William Strunk Jr. and E. B. White
おすすめ度:★★★☆☆
この本は他の人から良く勧められる本です。
しかし個人的にはOn writing wellと比べるとちょっとフォーマットが解りにくい気がしました。
例文をいくつか出しているのですが、どっちが良い例でどっちが悪い例かが明確に書かれていないケースが多く、自分にはちょっと難しかったです。
しかし推敲のときはこの本も読み返すことが多いです。机に置いておいておくと安心です。
こんな人におすすめ:
・On writing wellを持っていて、もう1冊欲しい方
関連記事:
英語の勉強法に関して、記事を書いていますので参考にしてみてください。
理系におすすめの本
9.How to write a lot 翻訳版:できる研究者の論文生産術
Paul Silvia
おすすめ度:★★★★☆
この本は書くこととの向き合い方に関する本です。
研究者がどのように書く作業を日常的に組み込むかについてのヒントがたくさんあります。
こんな人におすすめ:
・書く時間を確保できない大学院生や研究者の方
10.なぜあなたは論文が書けないのか
著:佐藤雅昭
おすすめ度:★★★★★
この本は論文を書く際につまずきやすいポイントを紹介し、それぞれのポイントに対する対策を紹介してくれます。
僕がこの本を好きな理由は、ただ「論文の書き方」について教えるだけではなく、論文が書けない心理や行動パターンについても記述があることです。
こんな人におすすめ:
・大学院生
・初めて論文を書いている方
・論文を書くことに対して不安がある方
関連記事:
研究が進まないときの対策をまとめてみましたので参考にしてみてください。
まとめ
文章力を鍛えることは様々な仕事に役立つと思います。
特に文章力があまり重要視されていない分野で文章力がキラリと光っていると、アドバンテージになるケースが多いのではないでしょうか。
武器になるような文章力を身につけるには上に紹介した本を読んだり、自主トレをすることが有効だと思います。
研究者の自主トレの一部として書いたおすすめの文章力の鍛え方は下記のとおりです:
1.好きな作家(書き手)の文章を1段落読む。
2.内容を頭で理解する。
3.その内容をオリジナルの文章を見ないで自分の言葉で書いてみる。
4.自分の文章とオリジナルの文章を比べる。
5.自分の文章で言葉の使い方、比喩の用い方、説明の順番などで劣る部分を見つける。
6.自分の文章がオリジナルと同レベルくらいになるまで推敲する。
今後も一緒に文章力を鍛えていきましょ~。
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研究者や大学院生におすすめの本もまとめています
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