前の記事にもちょこっと書いたが、私は一度海外留学に失敗している。
正確に言えば、日本式修士課程を終えようとしていた筆者は、かなり努力したが様々なテストスコアで低い値を叩き出し、足切り以下の以下で諦めざるをえない状態だった。
アメリカ大学院はTOEFL 80 - 105点が足切りである。時間をかけて何とかTOEFLはどこかの大学にひっかかるぐらいにはなったが、そこからGRE Analytical, Writing, Verbal, + Subjectを上げる時間と体力は残っていなかった。受験を考えている人はなるべく早い時期から対策することをお勧めする。
アメリカの留学出願シーズンは9-12月ぐらいだったような気がする。このタイミングを過ぎてもヨーロッパはまだ学生を募集していたりするので*、翌年の春とかに引っ張ればまだチャンスはあるが、それは同時に4月からプー太朗になることを意味していた。
実際、カロリンスカ研究所の若手PI**の一人とコンタクトをとってみてはいたが、丁度同時期に現在の所属する大学から合格通知が来たので、素直にオファーが来た大学へ行くことにした。
*学会の求人サイトとかに結構不定期で掲載されている。またGRE提出を求めてこない場所もたくさんあるのであきらめない方がいい。
**この記事を書いて思い出したので、この教授を検索してみたらまだちゃんとラボは存在した。もしカロリンスカに行っていたら、現在どれだけ違う状況になっていただろうかとしみじみ思う。
海外ポスドクという再チャレンジ
アメリカ大学院留学は果たせなかったが、そこで行った準備は大いに役に立った。アメリカ留学出願者の中では下位の英語でも、日本ではそこそこ重宝される。そのおかげで、英語ネイティブのボスのラボに入ったので、博士課程の間なんとか英語は上達していった。
今思い返すと、最初は下手くそで周りにフォローしてもらうことが多かったけれど、最近はそういったシーンも少なくなってきた。
海外でポスドクするということは日本のアカデミアではある意味王道コースといえるかもしれない。
しかし自分にとっての海外ポスドクは、アカデミアの出世街道を進むというよりは、当時果たせなかった目標に対する再チャレンジ的な意味合いが強い。
一応気になる留学先が2人ぐらいいた。
一人目は、私の研究している領域を網羅的に研究しており、ネイチャーレビューなどを何本か書いているG教授である。
もう一人は、数年前に彗星のごとく、タヌキの研究領域に現れた気鋭の若手のF教授である。タヌキはその人の論文に結構影響を受けたので気になっていた。
正直それ以外のラボは殆ど興味がなかった。
ホームページを見るとどちらも結構顔が怖いので敬遠していた。
丁度今年の2月頃、アメリカでポスドクをしている兄貴分的な人と電話した際に、F教授と話す機会があったという。親切な事に、興味があればF教授と話してくれるという。
タヌキは反射的に「お願いします!」と言った。
しかし、F教授にビビッているのは間違いない。お願いしますなどと言ったもの、ワクワクを上回るビクビクが背中に覆いかかってくる。自分でもなぜあんなにすぐ「お願いします」なんて言えたのかよくわからないぐらいであった。
「まぁ、無視されるかもしれんし、いいよね...」
自分の駄目なところだが、ビビると「連絡が来ない方が精神的に楽」という所まで来てしまう。
ところが数日後、兄貴分から「興味あるみたいだから、メールすれば連絡するって言ってたよ!」と連絡が来た。
まじか。
嬉しい反面、思いもよらないチャンスに体がすくむ。
F教授に「あなたの研究に興味があります」メールを送ると、すぐに返事が来た。
とりあえずCVとResearch interestを送ってほしいとのことだった。
CVを全く準備していなかったので急いで準備した。また、すぐに送らなければいけないために、急いで1ページのResearch interestを書きあげることに。
それらの書類を送ると「すぐにスカイプしよう!」とF教授からメールの返事が来た。
そして、スカイプ面接。
アメリカがサマータイムに既に突入しているのを忘れていたため、こちらの時間を伝えた際にかなり早朝の時間帯を入れてしまった。
決定してしまったので、仕方なくその日は朝の5時に起床、6時からスカイプミーティング。を行った。
スカイプで実際に話してみると、思ったよりもフレンドリーな雰囲気。写真は怖い顔をしていたけれど、話すときにはそんなに怖くなさそうだ。
最初にスクリーン共有して、自分の研究を20分くらいかけて説明。それに返すようにF教授が現在進行形のプロジェクトをスライドを使って説明してくれた。
このスカイプのミーティングではお互いの興味がかなり共通していることがわかった。
推薦書を2つ送ってほしいということだったので、後日メールで送ることに。これから先は結構トントン拍子で進む。
インタービュー及びジョブトークの日程をおよそ二ヶ月後にしたいとの旨を伝えて、何はともあれプレゼンの準備に集中することにした。
急いでいくつかのデータ解析を行い、どんなサイズの会議室でもビビらないように、大学の大部屋を予約して練習したりした。
しかしながら、連日の緊張から。プレゼンの準備が思ったよりもはかどらない。
どういうことかというと、ソワソワしてしまって集中できない。25分で終わるプレゼンならまだしも、45分のプレゼンの準備って、思ったより難しい。
どうせなら、渡航の一週間前にはほぼ完璧にスライドを仕上げて、余裕をもって出発したい。しかし、そんな想いとは裏腹に、準備ははかどらず、時間ばかりが過ぎてしまった。
アメリカへ行く4日前、PIからこんなメールが来た。
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Hi Tanuki,
Hope you are doing well. We are all looking forward to your visit.
...省略...
Please find your meeting and seminar schedule attached with the e-mail.
Please let us know if you have any questions, and safe travels!
XXX,
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「スケジュール送ってくれるんだ、ありがてぇ~」と思い、添付のpdfを開きました。
すると
「まじ...?」
全部で10人以上とのミーティング。なぜ知らないPIとのミーティングがこんなにあるんだろう...
しかもこんなにミーティングあるのに、休憩時間一分もないよ...
「もしかして、自分はとんでもないところに丸腰で飛び込もうとしているのかもしれない!?」
「プレゼンもっと練習しないと丸焼きにされる」
恐怖が湧いてきました。
その日から、出発までの3日間はあまり記憶にありません。
朝から晩までプレゼンの不安が頭から離れず、家族には迷惑をかけたと思います。
休日も大学のミーティングルームで練習しました。
これほど追い込まれた気持ちになったのも滅多になく、久々に本気で逃げたいと思いました。
しかし航空チケットもホテルもとっくの昔に予約してあります。
もはや、これから来る素晴らしい未来のために、準備をしている!という爽やかな精神状態ではありません。これから待ち受けている困難のために、苦しい準備をしている、という思考を彷徨いながら過ごした3日間でした。
出発前日、毎朝早めに来ているラボのシニア研究者と遭遇したので、今回の話をすると
「そんなのアメリカでは当たり前だよ」
「それだけ一人の研究者を雇う事が、ラボに与えるインパクトが強いということだよ」
それだけ向こうも真剣に選びに来ているという事か...。
少しだけ気が楽になったように思いました。同時に、当日挑むべき心の置き所がわかった気がしました。
結果がどうだ、恥をかくだ、丸焼きにされるだ。そんなことはどうでもいいのです。
ここで終わってしまえば何も無かったかのように、いつもの生活に戻ります。
向こうは、本気で成果を出してくれる人物を選びに来ています。
だとしたら、こちらも別に何を盛る必要も、隠す必要もないのです。今までやってきたことを、今できる限りの準備をして、発表するだけ。
プレゼンの最終チェックを学生仲間やポスドクの方にしてもらい(みんなありがとう)、なんとか準備が終わったというレベルに到達できました。
風呂敷に荷物を詰め、アメリカ西海岸へ向かうのでした。
つづく...
海外ポスドク面接体験記②:それでも葛藤は続く
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