研究室の人間関係:ちょっと笑えるエピソード

カメで~す。

今回は研究の息抜きとして「僕が神様に祈るようになった話」をします。



ちょっと前の話になりますが、僕の席と背中合わせには中東出身の女性ポスドクのBさんが座っていました。

僕のラボでは2つの席だけ他のラボメンバーとはちょっと離れたところにあります。

スペース的にはオープンな感じですが、僕たちだけちょっと隔離されています。



Bさんは優しくて、日本語もペラペラ、そして研究もできる優秀なママさん研究員でした。

いろいろあってBさんは半年ほどでラボを出て行ってしまったのですが、ラボにいた間は仲良くさせてもらいました。

僕にとっては中東の方と話す機会はめずらしく、話すたびにいろいろな文化の違いを知ることができ、新鮮でした。

しかしBさんがいなくなって、少しホッとしている自分もいます。



その理由は「お祈り」です。



Bさんは毎日5回お祈りをするのが日課らしく、勤務時間中もお祈りすることがよくありました。

お祈りすること自体にはびっくりしないのですが、お祈りする場所にびっくりしました。

Bさんは自分のじゅうたんを持ってきていて、僕らの席の間の狭いスペースにじゅうたんを広げ、窓の方向に向かってお祈りをしていました。

僕のすぐ後ろで行われるBさんのお祈りは決まった時間があるわけではなく、おそらく思い立ったときやBさんの実験の切りのいいタイミングで行われていました。

数分くらいお言葉を唱えてからお祈りは終わるのですが、突然お祈りが始まるときは、正直「集中できないな~」と思っていました。



でも僕だって理解力のある大人です。

多様性を受け入れる心の広さは持っているつもりです。

全然我慢できます。



しかしある日、前までとはちょっと違う感じでお祈りの声が聞こえてきました。



Bさんの声が僕に向かって聞こえてくるのです。

「まさか~」と思い、チラッと後ろを見てみると以前とは方向が完全に回転していて、ダイレクトに僕に向かってお祈りが行われています。

自称、理解力のある僕でも「え~!!!何コレ?」と完全にとまどいました。

動揺のあまり、僕はそ~っとその場を離れ、10分くらい休憩してから席に戻りました。



席に戻るとBさんは、
「ゴメンね~、気使わせちゃった?」と聞いてくれました。

僕はさっきまでの動揺を隠し、
「イヤ~大丈夫だよ、ちょうど休憩しようと思っていたから」と言いました。



しかし、急にお祈りの方角が変わったことが不思議すぎて、勇気を振り絞り、
「な、なんか今日、ちょっとお祈りの方角、変わってなかった?」と聞いてみました。

Bさんは笑いながら、
「あ~、実はお祈りの正しい方角をチェックしたら、あっちの方向だったのよ」と僕の頭の上の方角を指差しながら説明してくれました。



マジか。。。



しかしBさんは僕の作業を中断してしまったことを申し訳なく思ったらしく、
「私のお祈りは気にしないでね。カメ君が気にしてどっか行かないといけなくなると私も気を使っちゃうから、もし良ければそのまま作業してて。」と言いました。



確かにBさんのお祈りの度に僕が毎回休憩をとっていたら、Bさんもお祈りをやりにくくなってしまうことでしょう。

「僕は理解力のある男だ」、と自分に言い聞かせながら、
「もしBさんがそれでいいなら、僕は気にせずただ作業してるよ」と言いました。



しかし僕は次の日、あまり深く考えずに返事をしたことを後悔しました。



お祈りの時間がやってくるとBさんはじゅうたんを広げ、ピシッと僕の席の方角に角度を整え、ひざまずき、お祈りの言葉を唱えながら、僕に向かって何度も何度も頭を下げます。



気まずい!!!



ただ座っているだけなのに体に緊張が広がり、脇汗もジワーとでてきました。

大勢の前の口頭発表よりも緊張しました。



しかし、僕は気にしないで作業を続けると言ってしまったのです。

「こんな状況で作業できるか!!」と思うも、とりあえずはジーッとパソコンの画面を見て論文を読むフリをしました。



論文を読むフリをしながら考えていると、今の状況よりも、もっと恐いシチュエーションを思いついてしまいました。



それは、誰かが通りかかってこの状況を見てしまうということです。



傍から見たら、中東の女性がひざまずいて僕に対して何度も何度も頭を下げています。

そして僕はそれを無視しているかのように見えるでしょう。




通りかかった人はどう思うでしょうか。

「アイツお祈りしてる女性が真後ろにいるのに、席から離れね~のか。理解力ね~な~。」と思う人もいるでしょう。

でもそれならまだマシなほうです。



「なんだアイツ女性に土下座させて謝らせてるのか?」と思う人もいるかもしれません。

「こうしてくれと頼まれたんですよ!」と書いた看板を作って立てたくなりましたが、そうも行きません。



気づくと僕は硬直状態のまま、「誰も通りかかりませんように」と祈っていました。




後ろでも神様に祈っていて、座っている僕も神様に祈っていたのです。



なんとも不思議なシチュエーションから、「僕が神様に祈るようになった」という話でした。






あとがき

お祈りされる状態は数ヶ月間続き、何度かは状況を知らない外部の人が通りかかることもあり、冷や汗をかきました。

しかし最後のほうはお祈りのタイミングもだんだんわかるようになり、できるだけお祈りのときは席にいないように作業をスケジュールすることができるようになりました。

今、背中合わせの研究員さんは貧乏ゆすりがちょっと激しいですが、お祈りを経験したあとなので、へっちゃらです。




カメの学会体験談もちょっと笑えるポイントがあると思います:

人見知りの一人ぼっち国際学会:無視されないポスドク先の応募メールと学会準備

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