海外ポスドク面接体験記②:それでも葛藤は続く(アメリカ)



海外ポスドクインタビュー体験記①も見てください。
前回あらすじ

海外留学を挫折し国内の博士課程に進学。卒業も近づいた今、再度留学の道へ一歩踏み進んだタヌキ。しかし、いざ海外ポスドクインタビューが決まるとビビりまくる始末。果たしてこのチャンスをつかむことが出来るのだろうか?


久々のカリフォルニアである


カリフォルニアに初めて来たのは23歳の時だった。研究室のボスがサンディエゴの学会に参加するので興味があるなら来ないか?というのがきかっけだった。


ちゃんとした研究室にいる人は驚くかもしれないが、私が最初に研究を始めたラボは貧乏ラボで、旅費は自腹だった。


実際には夏のTAのアルバイト代でまかなえはしたものの、今考えてもトータル20万の中々高い買い物である。


海外に行くのは初めてであったタヌキは夏のTA代をはたいて勇み足で始めての海外学会に参加することを決意した。


他の学生と一緒に行ったという思い出の補正もかなりあると思うが、初めてのサンディエゴの学会は希望に満ちていた。


奥武蔵から出てきたタヌキにとっては全てが刺激的だった。


日本では考えられないサイズのハンバーガーや、美しいヨットの並ぶ港、ステーキ屋で出された赤ワインもとびきり美味しく感じた。


ご存知の方も多いと思うが、サンディエゴのコンベンションセンターは超巨大である。


そこに集まる何万人という研究者を目にして、タヌキは世界の広さを垣間見たような気がしていた。



そんな思い出の深いカリフォルニアに、仕事のインタビューに来ているという事実は中々感慨深かった。




空港を出ると、仕組みもよくわからないまま初めて使うUberで10kmほど先にあるホテルへ向かった。道中酒と香水臭い青年が相乗りして来たので、関わるまいと、窓の外を見ていた。


「アメリカの道路、ガタガタだなぁ…」


タヌキは今眺めていた風景が、初めて来た時と全く違うことに気付かざるを得なかった。


思えば、この数年は自分の中でライフイベントが目白押しだった。


アメリカ留学挫折、博士課程進学、結婚


私はこの数年で変わってしまったのだ。


いざアメリカに来てしまえば、かつてのように異国の空気に酔って前向きな気持ちになれるのではないかという期待は甘かった。


今の自分には、ただ人の少ない平日の観光地が見えるだけだった。


23歳の時に見えていた、アメリカはもうそこにはなかった。


今はただ不安なだけである。明日のインタビューも不安だし、インタビューにもし受かったとしても、その後のことが不安である。


「自分は、海外で研究することに、そこまで期待していないのではないか」


そんなことを思う度に


「急に現実が目の前に来たからビビって逃げたいだけではないのか?」


「研究したいだの、海外に興味があるだの口で言ってるだけで、本当はそれを乗り越える度胸も無いのではないか」


という葛藤が頭に何度も浮かんでくる。


そんな事を考えてたらホテルに着いた。


もう夕方だったので、近くのスーパーでサンドイッチを買ってホテルで食べた。スライドのチェックを終え、時差ボケを感じながら眠りについた初日であった。



インタビュー1日目



時差ボケで、浅い眠りから覚めた。

ミーティングは午後からであったので、近くのスーパーへ行ったりと、割と余裕のある午前中をホテル周辺で過ごした。

昨日の不安と葛藤は一晩寝れば治るものでもなかった。一方で、タヌキのメランコリーとは裏腹に現地の天気は快晴、何か新しい体験をするには悪くない日のような気がした。


昼前になったので、またUberに乗って、いよいよ研究所へと向かった。


道中、陽気なアメリカ人ドライバーの独り言なのか話しかけているかよくわからない会話を無視すまいとヒヤヒヤしながら向かった。

乗っていた学生と少し話になったので、これからjob interviewだという事を話したりして、ようやく研究所へ着いた。


「Good luck with your interview!」


と励まされ、少し嬉しかった。

さて目的の研究所についた。Webサイトにある通りの外観である。


セキュリティにX教授とミーティングがあると伝えた。


しばらく待っているとX教授が来た。

「よく来たね、タヌキ!」と爽やかに迎えてくれた、

(…でかっ!)

想像したより身長が10cmはでかい。190cm近くあるんではなかろうか?でかい。




中に入る前にアーティスティックな外観のメインビルディングを「どうだ!すごいだろう!」と言わんばかりに案内された。


かなり独特のデザインでかっこいい。しかし、タヌキが普段通っている研究室のビルのデザインも中々凝っているので(ドヤッ)、外観の派手さゲストに紹介するくだりは誇張なしに100回は見ている。こういう時はとりあえず「すごいなぁ〜」といった感じで振る舞うのが礼儀である。


インタビュー1:教授



「この後いろいろな人から話があるし、同じ事を繰り返すのもおかしいから、本当にざっくり研究について説明するよ。」


と大まかな説明を受けた。続いてこちらの興味も聞かれたので。


「もともとXXXに興味があって研究を始めた。でもやるうちにYYYを明らかにしたいと思い始めた。将来的にはZZZのような研究をやって見たいけれど、DDDの部分が自分には足りないと思っているから、できればここではDDDを使った研究をやりたいと思っている。」


これは、タヌキがよく使う言い回しである。


あたかも非常に論理的な動機付けかのように話しているが、正直自分で話してて、どこまで本当かわからない。正直なところこのラボを選んだのも「良さそうだから」としか言いようがない。


私は本当に研究をしたいのか?


研究は楽しい時は楽しいし、楽しくない時は楽しくないような気もする。


楽しい部分といえば、プログラミングとか、新しいことができるようになることが魅力といえる。


「出来なかったことが、できるようになる」


これが自分にとって、一番大きい気がしている。


でもどんな仕事でも、最初はできないことが多い。それが出来るようになると、どんどん自分に対する要求は高度になってくる。


研究で言えば、実験ができるようになることが最初の段階である。


その次は、効率が重要になる。出来ることをいかに効率よく、スピードに乗せて出来るか、いかに少ない実験で済ませるかが勝負になる。


そうなってくると、急に辛くなってくる。


ゆっくりやってもいずれ出来る事を、かなり無理して早くやるのである。甘ったれていると思われるかもしれないが、そこがしんどい。


なので、自分が「〜に興味がある」という時に、少し罪悪感がある。自分がもつ興味のレベルが、本来あるべきレベルなのか自信がないのだ。


教授との面談を終えて、午前中は3人ぐらいの人と話した。


自分が考えていたより、ずっと肩の力の抜けたインタビューだった。外のテラスに移動して話したり、学生同士実験でしんどい事を相談しあったりして一日目は終わった。


来る前の葛藤とは裏腹に、ラボのメンバーとは気が合いそうだった。教授は怖そうだけど、頭のキレる将来性のある人物に思えた。


明日はいよいよ泣いても笑っても最終日である。プレゼンの最終確認を終えて、深く眠りにつきたい。



つづく


研究者をやめたい時励ましてくれた本4冊



2 件のコメント :

  1. 「私は本当に研究をしたいのか?」の項目、非常に共感してしまいました。

    出来なかったことが、できるようになる時が楽しい。自分が「〜に興味がある」という時に、少し罪悪感がある。自分もまさにその通りです。

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    1. 記事を読んでいただき、ありがとうございます。私はこの業界は何となく「三度の飯より研究が好きじゃないと駄目だ」という風潮があるように感じるので(思い込みかもしれませんが)、普段はあまりこういう話を口に出しません。同じことを考えている人がいるとは知らなかったので、コメントを見て少しの驚きと安堵がありました。これからもブログをよろしくお願いたします。

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