研究の進め方がわからない?19の問いかけから効率的な研究の進め方を生み出そう


今回はタヌキとカメの合同記事です。研究が進まない時の改善点、研究の進め方についてまとめてみました。

研究が進んでいない時っていうのは、焦ってしまうので、どうしても盲目になってしまいます。

本を読んだり、周囲の意見を聞いて、克服するたびに教訓を得るのですが、時間が経つと忘れてしまったりします。

というわけで、今までの経験などを書き溜めて公開します。

一応このブログの筆者は卒業できそうですが、まだ学生ですので***、あくまでそういう人が書いているという前提で読んでください。研究初心者の人には参考になると思います。

また、我々はバイオ系なので、いくつかの点はバイオ系のみに当てはまるかもしれません。

ベテランの方でも、後輩や部下がどういう所でつまづいているのかの参考になると思います。

***この冬めでたくカメもタヌキもPhDを取り、海外研究機関の内定を得ることができました!!!




初級編

1. しっかりとした労働時間が確保できているか?

平均的な研究者の勤務時間は50時間だと言われています(Stack S, 2004)もし何らかの理由でその時間を下回っているのであれば、一度見直してみるべきかもしれません。平均よりも少なく働いているのであれば、それを取り返すだけの高い集中力、高い生産性のある装置の使用など、アドバンテージが無ければ成立しません。

参考:
年中無休、24時間研究中!
Stack, S. Res. Higher Ed. 45, 891–920 (2004).



2. 仕事のリズムができているか?


毎日決まった時間にちゃんと出勤できているでしょうか?夜型、朝方など色々なタイプの人がいると思いますが、リズムの無い作業は、計画が立てられていないということ、計画通り実行できていないことの裏返しかもしれません。



3. そもそもラボに顔を出しているか?


毎日ラボに顔を出せていない、人目を避けて図書館に籠っている場合もよほどの理由が無い限りは、改善が必要だと思います。この場合、作業効率云々というよりは、決まった時間にいないため、周囲の人から声がかかりにくくなります。雑用であれば、逃げてしまうのがいいかもしれませんが、周囲から降ってくるオイシイ話(ちょっとした手伝いで共著ゲット)も逃している可能性もあります。誰かがあなたの力を必要としているかもしれません。誰かがあなたと誰かを引き合わせようとしているかもしれません。顔を出すというのはとても大事です。
参考:
Showing up is the most important step
The Single Biggest Thing You Can Do For Your Career: Show Up



4. 3ないルールは守れているか?


3ないルールとは山中教授が著書で紹介していたルールです。


  1. 目的がない実験:目的のはっきりしない実験。実験することそのものが目的となっているような実験。
  2. コントロールがない実験:実験をしている人なら説明不要ですね。
  3. 後片付けがない実験:実験ノートの記録、実験器具など後片付けのない実験。

これらの基礎中の基礎ができていますか?
賢く生きるより 辛抱強いバカになれ (朝日文庫)より



5. 体力は十分か?


アルバイトのし過ぎ、夜更かし、お酒の飲み過ぎ、外食ばかり、日曜日も実験。そもそも、研究に力を注ぐための体力と集中力が残ってますか?体力に自信のある人はいいでしょうが、もし仕事に集中できない程疲れているのであれば、一度ライフスタイルを見直して見た方がいいかもしれません。
私の経験上、疲れている時は以下の症状が現れます。


  • 部屋や、実験の小物を片付ける元気がない
  • ぼーっとしてしまう
  • 忘れ物が多い
  • 食べ過ぎ、飲み過ぎている
  • 運動する時間的、体力的余裕すら無いと感じている
  • 息苦しい
  • 眠りが浅い
  • 外食ばかりしている
  • イライラしている

自分なりの点検項目を見つけて、早めに修正する習慣をつけるようにしたいです。



6. その日、その週、その月にやるべきことが少なすぎないか?


計画を練る段階で、自分に甘い設定をしてしまう時があります。気づいたら、計画通りやっても大して生産性が高くない事なんて良くあります。
もしその日やらなければいけない事が2つなら、なぜ3つできないのか考えてみるのが良いと思います。


"タヌキは学部の卒論の時に、マイペースにデータを出していた時がありました。でもある時、後輩に言われたんです「卒論までにデータ全部集まりそうですか?」...と。その言葉で初めて期限内にどれだけのペースでデータを出さなければいけないか計算し、大急ぎで年末を過ごした記憶があります。そしてその時ギアを一段上げて初めて、「意外とこのハイペースでも実験できる」と気づきました"



中級編



7. 落ち着いているか?

研究が進まなくてパニックになる事ってあります。そういう時って信じられない程非効率なことをしている時があります。
パニックであるなら、とりあえず落ち着きましょう。パニックとは「やるべきことがわからない」状態のことをいいます。そういう時は目の前の課題を整理しましょう。頭で思考すると余計パニックになるので、紙に書くのも良い手です。

参考:
どうしたらいいか わからないとき、どうするか? 野口嘉則 (←おすすめ)Youtube



8. 複数の作業を平行にちまちまやっていないか?

これは私の実体験なのですが、終わらせられなければいけない作業がA,B,Cとある時に。同時に進めてしまいがちなんです。何となくリスク分散したいという無意識が働きかけてしまうのです。同じ時間をかけるならAのコントロールと条件1,2,3を一気に終わらせて、次のプログレスレポートで気持ち良く発表しましょう。その次にBやCに取り掛かってください。
A,B,C全ての進捗が中途半端だと、ボスも心配します

ここ20年の研究結果でもマルチタスクの非合理性が徐々に明らかになってきています。なんとなくかっこいいからといって、無理にマルチタスクするなんてのは今すぐやめましょう。

参考:
Multitasking: Switching costs
12 Reasons to Stop Multitasking Now!



9. 論文の青写真は頭の中にあるか?

ゴールが明確でない時に進むのは辛いです。Figureのイメージがつかない。論文が書けない。次の実験が組めない。そんな時は、参考になる論文を2本ぐらい引っ張ってきて、先人がどのようにFigureを組み立てたか、どのように論文の文章を構成しているかを参考にしましょう。仮でもいいのでイラレかinkscapeを開いて、Figureの構成を考えてみましょう。Figureに足りないコンテンツ、自分の作文に足りない表現を浮き彫りにしましょう。



10. メールの通知をオフにしているか?


個人的に猛烈にお勧めしたい事は、メールの通知設定をオフにすることです。音の通知をオフにすることはもちろんの事、画像の表示もオフにすることをお勧めします。例えばOutlookでは封筒のマークが画面下に表示されるのですが、こんな些細な記号でも、仕事への注意は逸れてしまいます。
メールの通知をすべでOFFにすることによって、メールチェックの回数は大幅に減ります。



11. 実験結果をしっかりFigure化しているか?(本当に進んでないのか?)


実は十分な実験結果が出ているのに進んでいないと勘違いしている場合があるのではないでしょうか?
実験結果は、Figureにしてみて、本当に論文にならないのか検討して見た方が良い時があります。もしかしたらもう十分なデータ量はあって、Figure化の努力が足りていないだけかもしれません。しっかりとしたFigureが手元に無いと、ボスも心配します。



12. 学会発表、論文投稿など、わかりやすい制限時間を設定しているか?

放任主義なラボであれば、自分のペースで研究しなければならないことがあります。一度誰かにペース配分を叩き込まれたことのある人であれば、過去の経験でペースをつかむことができるかもしれません。もし、まだ自分のペースがつかめていないのであれば、分かりやすい目標を立てましょう。学会発表であれば3-4ヶ月先の目標として適していると思います。初めての論文であれば、1年ぐらい先に投稿する目標をたてると良いと思います。目標に応じて、スパンが違いますから、小さい目標と、大きな目標を組み合わせて、自分のペースを作り上げると良いと思います。



13. 何を知りたいのかをクリアに考えているか?

日本では仮説ドリブンの実験デザインで物語を組み立てるのを採用していないケースを良く聞きます。探索的な研究が重要な場合もあります、ヒトゲノムプロジェクトや、解剖学などがそうでしょう。一方で、一個人で完結できるようなプロジェクトは仮説ドリブンのデザインが適合する場合がほとんどではないでしょうか?仮説を立てて、予測できる事象や知りたい事をはっきりさせましょう。



上級編



14. 本当にやらなければいけない実験を後回しにしていないか?

プロジェクトによっては、あまり手を付けたくない実験があります。例えば、もし予想している結果が出なければ実験計画の吹っ飛びそうなコントロール実験など、そもそも成立しないと今までの努力が水の泡になってしまいそうな実験です。

そういった実験に手を出すのはかなり勇気が要るので、後に持っていきがちですが、初めに手を付けなければ、気持ちよく前に進めませんし、後々自分の首を絞める結果になるとまずいです。

どうせなら早い段階に終わらせて、もし駄目なら残った時間で別の実験を始めた方が身のためです。



15.仮説ドリブンに固執しすぎていないか?

初級編に仮説はあるか?のようなことを書きましたが、仮説に固執し過ぎても駄目です。高い生産性を誇るラボには、仮説ドリブンと先入観の無いアプローチのバランスをうまく取っています。




16.自動化できるものはないか?

自動化するのは短期的にはめんどくさいです。でも長期的に考えると自動化ができると研究のスピードが上がります。

例えば細胞の写真を50枚ほど取って、それを手作業で画像処理するのに15分かかるとしましょう。もしもプログラミングで画像をフォルダーから選択して、一連の処理を加えて、新しい名前で保存することができれば、15分、他のことができます。しかし、プログラミング初心者だとそのプログラムをつくるのに15分以上かかってしまいます。期限が近く、近々に画像処理を終わらせなければならない時だと、よくわからないプログラミングに挑戦するか、それとも15分またあの画像処理作業をするか。。。おそらく毎回、手作業の15分画像処理を選ぶことでしょう。短期的に考えるとめんどくさいのはプログラムを作ることだからです。


なのでコツはその選択に迫られていないときに時間を決めてプログラムをのらりくらり作っておくことです。そうしてプログラムが出来上がったときには自分をすごく感謝するはずです。また、プログラミングなどのスキルも上げることが出来ます。


もし3-5年ある研究期間の前半であれば、絶対に自動化に投資すべきです。例えば金曜の午後とか、集中力の低い時間帯にコツコツ自動化のプログラミングや装置を作るのです





17.研究が進まないのは良かったかもしれない?

ある研究室でちょっと微妙な実験系がありました。その実験系を成功させて論文にした人はラボからもう出ていってしまい、現在いるラボメンバーで満足に成功できる人はいません。教授はその実験系が好きだから、新しく入ったポスドクにその実験系を数ヶ月やらせます。なんとなくできる人と全くできない人が出てきます。全くできない人はその実験系から外れて、別のことをやります。しかしなんとなくできてしまった人はその実験系をもっと深く追求することがプロジェクトになってしまいます。しかしその実験系はやはり安定せず、3年間その実験系に踊らされ、論文なしでラボを去りました。

こういう場合は最初「研究が進まない」ほうが得です。もしかして、数年後に振り返ると、あのとき研究が進まなくて良かったなと思えるようなこともあるかもしれません。


また、研究がうまくいかなかったから、研究職をやめて、就職したらそれが天職だったなんてこともありかもしれません。ポジティブに考えましょう。




18.助けを求めてみたか?


助けを求めるということが上級編?と思われたかもしれません。しかし、これはおそらく言うはやすし行うは難しな上級テクニックです。
助けを求めるには色々な心理的バリアをクリアしなければいけません。例えば
  • 問題があることを自分が認めなくてはいけない
  • うまく行っていない事を他人に知らせなければいけない
などの壁を乗り越える強さが必要です。私もできているとは思いませんが、やはり「ヤバくなる前に相談」できるかどうかが鍵になります。
このわかばめにっきさんのブログでも博士課程での後悔として「周囲に学術的に甘えればよかった」と書かれています。

相手の時間を奪うかもしれないと考える人もいるかもしれません。そういう時は、「自分が他人からXXと思われる」という思考を「他人を自分がXXと思う」と一度転換してください。ここでいえば、他の人が自分に助けを求めた時に、自分がどう思うか?「助けを求めてくるなんて信頼されているのかな?」と、いい気分がするならば、自分が周囲に助けを求める時も、そう思われていると考えましょう。もし、「助けを求めて来られても、面倒くさいし、時間がもったいない」と思うのであれば、思考を改めましょう。他人への厳しい視線は、そのまま自分にも反映され、結果自分が苦しくなります。




19.運がいいという意味を理解しているか?

世の中の成功者には「運が良かった」と述べる人たちがいます。その意味は単純に宝くじが当たるような意味での「運がいい」という側面と、もう一つ隠れた意味があると思っています。

それは、些細な出来事に前向きな意味を見出す能力です。例えば、もし自らの身に不幸な出来事が起きたとします。その時点では、ただの不幸な出来事ですが、もしその中から何かしらの気付きを得ることが出来たらどうでしょう?もしその不幸な出来事から「自分を省みるきっかけを得た」「違うことを始めようと考えた」など、前向きな出来事への転換点だと考え、そこから成功が始まったとしたら?おそらく、ただ運が良かった人物は一握りだと思います。もし世の中の成功者が「運が良かった」というのであれば、きっと、そういった些細な出来事から、学びを見つけ、前向きに捉えてきた結果なのかもしれません。

参考:田坂広志(http://hiroshitasaka.jp/letter/6731/)


参考になる内容はあったでしょうか?


研究者をやめたい時励ましてくれた本4冊

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