前回の記事では博士はそんな悪いものでもない、というメッセージを強調しましたが、実際に博士課程で中々厳しい戦いを迫られた友人を何人も見てきました。
そこで今回は博士課程で人生終了しないための最重要事項である「研究室選び」についていくつか私の見識の範囲ではありますが、悩める後輩たちにアドバイスのつもりで書きました。
もし人生の先輩方で、「こんなアドバイスもあるよ!」「ここは間違っている!」という意見などございましたら、ダイレクトメッセージやコメント欄に意見をいただけたらと思います。
なるべく決めつけにならないよう心がけますが、追記・修正すべき部分は編集していきます。
また、タヌキは理学系ですので、理学系でありがちなことに偏っているかもしれませんので、そのあたりは各人で判断して頂ければと思います。
1. 最初の防衛線「ドロップアウトしないプランを立てよ」
1-1. 指導者が指導に適していない
したがって、指導者との性格・価値観・スタイルの不一致がおそらくもっとも致命的であるといえます。
以下、いくつかの避けたいシナリオを述べましたので参考にしてみてください。
1-1-1. パワハラ・アカハラ(グレーゾーン含む)
裏表激しすぎるケース
とある教授は、webサイトでは非常に仲睦まじい写真をアップして、教育熱心さをほのめかすコラムなどを執筆しているが、実際はミーティングで怒鳴り散らす、その日の機嫌によって言動が全く変わる、必須の書類・印鑑を貰えないなど、とんでもない人物で、ポスドクの定着率も低い。
ここに気を付けるべき→webサイトでうまいことばかり言っている:
研究室の仲の良さをアピールしている写真をやたらと載せていたり、研究室紹介でラボのメンバーの仲の良さをやたらアピールしてくるラボは中身をよく調べましょう。
そこが弱点だからアピールして覆いかぶせたいという心理の表れかもしれません。
みなさん、アルバイト経験はありますか?
劣悪なアルバイトに限って求人広告に「アットホームな職場!」「従業員で旅行!」と書いてありませんか?
気を付けましょう。
もちろん!中には本当に仲が良い場合もあります、20代の人にとって重要なのは表に出ているメッセージを鵜呑みにせず、自分で判断できる感性を育てることです。
私が個人的に警戒するケース→ボスの自己顕示欲がすごすぎる:
過去テレビに載った映像とかを延々学生に見せるのを見たことがあります。
その他にも製薬企業とのコネをちらつかせる、自分の経歴をみせびらかす人も見た事があります。
この時点で正直私は「??」という感じだったのですが、純粋な学生の中には「この先生すごい!」と思う人もいます。
ただの目立ちたがりのおちゃめな先生であれば良いかもしれませんが、本気で自分より20は下の学生相手に自己顕示欲を満たそうとしているのであれば、少し指導者としては不安です。
一方そういう人とのマッチ度が高い人であればうまく波に乗れる事もあります。
どちらにせよ少々癖の強いラボかもしれないので、自分に合うのかよく実情を調べましょう。
私が個人的に警戒するケース→謎の連帯感のあるラボ。
ラボのTシャツとかを作っている研究室も個人的にはあまり良いラボだった記憶がありません。
博士号を取るという人にとってラボは研究する場所であって、大学サークルではありません。
全員おなじTシャツを着せるというのは、小学校~高校のイベントならわかりますが、ラボで学生に買わせるのであれば同調圧力の強いチームかもしれませんし、それを止める人がいないという事かもしれません。
組織の権力にアンバランスさを感じます。
一方、何かの広報で大学から支給されたのをイベントの時に着るぐらいであれば良いでしょう。
高IF至上主義すぎて学生目線が無い
卒業要件には筆頭著者の論文が2つ必要なので、2つ目まで急いで投稿したいが、研究室の方針がインパクトファクター10以下は認めないという方針なので、卒業を延ばさざるを得なくなった。
ここに気を付けるべき①→教育を目的とした機関でない場での博士課程、学生を卒業させた経歴の無いラボ:
提携大学院という仕組みで、日本中の研究機関で学生が研究することが可能です。
気を付けるべきことは、所属する大学院のルールと派遣先の研究所のルールは異なるという事です。
独立行政法人などの研究所は、研究する場所です。
設備も資金も潤沢なケースが多く一見素晴らしい環境ですが、求められる研究レベルも高くなります。
研究レベルが上がることは歓迎すべきですが、求められる論文のレベルが無条件で高くなるのは別です。
派遣元の大学院の卒業要件は国際誌2報であるのにもかかわらず、派遣先の研究室は国際誌の中でもトップジャーナルでなければ研究室の存続に関わったりします。
その場合所属する大学院では卒業できるレベルの研究内容でも、派遣先で投稿の許可が下りず、もう一年過ごさなければならない、というのは学生側としては非常に辛い。
派遣先の研究室が学生に何を求めているか、しっかりと確認しましょう。
1-1-2. 無意識ネグレクト
指導的な立場の人間が全く指導しないというのもたまに耳に入るパターンです。
研究の指導も大事ですが、おそらく学生にとって最も助けが必要なのは論文投稿の指導です。
論文投稿の段階でまともな指導が入らない(メールを全く返してくれない等)ことは致命的です。
ここで困るのが、教授が純粋に指導に興味がない場合や、指導が下手という場合もあります。悪気が無いので、ある意味厄介です。
ここに気を付けよう①→卒業生が詰まっていないか?
問題は丁寧に指導しているかという点です。
中には「私が学生の頃は、自分で何でもしたもんだ。指導なんて甘えたことを抜かすんじゃない!」という人もいます(表向きそうでなくてもそう考えている人はいると思います)。
指導とは、本来学生の個性をうまく引き出しつつも、改善しなけれはいけない部分は最低限改善するというものではなくてはいけないと思います。
そういうことができていないラボは卒業生がつかえている傾向があると思います。
学生はいるのだけれど、卒業できていない。
そういった傾向のあるラボは避けましょう。
ここに気を付けよう②→教育やマネジメントに対して哲学があるか?
普段からそういうことを考えていない人物は答えられません。
- しっかりとした教育に対する考えがサッと出てくる →◎
- 少し考えてからそれなりの答えが出てくる →〇
- 少し考えて曖昧な答えが出てくる →△
- 考えても出てこない / そんなことを聞ける雰囲気ではない→×
教授や、指導的な立場になった人がもし、教育とは、マネジメントとは、ということに対して全く思慮を巡らせてこなかったというのであれば、私は少々違和感を覚えます。
1-1-3. セクハラ
ある女性の学生が国内でも著名な大学で博士課程に進学しました。とても優秀な学生でしたが、研究室の准教授クラスの人に好意を抱かれ、アプローチと言う名のセクハラを受け、最終的にはラボをやめざるを得ない状況に追い込まれてしまいました。
とある私立大学の教授は、女子生徒だけを集めてランチを食べるという奇妙な習慣を当たり前のように毎日繰り返していた。
ここに気を付けよう①→上に男性しかいない組織。
ラボの上位ポジションor安定したポジションに女性(テクニシャン、講師とか、准教授とか)がいるのであれば、かなり違ってきます。
なにか不快なことが起きた時に(エスカレートする前に)、相談できるかもしれません。
ラボに女性が少なくても、例えば同じ学部に女性の教授がいる、ある程度権力のある委員会に女性がいるなど、いざという時に理解してくれる人がいるのもポイントになります。
たとえラボに女性が多くても、全員学生であったり、女性の教職でも任期付であると、あまり抑止力にはならないかもしれません。
まことに残念ですが、セクハラについては書ききれないほどあるのでアカデミアの中のセクシャル・ハラスメント(日本の科学と技術)も参照してみてください。
とにかく、ブラックラボを避けてください。確実にブラックラボを避けるための手段をカメが紹介していますので、是非参考にしてください。
1-2. 同期との相性が悪い
1-2-1. 超学歴主義的なラボ/排他的なラボに部外者として入ってしまう
"研究室の同期から、日々見下すような発言をされてきました。極めつけは研究室旅行で泊まったコテージで私が2階で寝ていたら、聞こえるように悪口を言われていたことがありました。"
from "https://kotetu-do.com/hokudai-daigakuin"
残念ですが、「自分たちが世界で一番」という思想を持った人が集まっている中に、実情を知らず飛び込んでしまうとあまりいい扱いは受けないでしょう。
また、こういった環境で我慢して、無意識のうちにトラウマを抱えてしまうのも良くありません。
ここに気を付けよう→研究室のメンバーのダイバーシティを調べよう:
中には全員XX大生というラボもあります。
こういう中に飛び込むのもいいのかもしれませんが、研究という、本来であれば様々な人がある程度流動することが望ましい中で、全員同じような人間で固めているというのはそもそもマネジメントの観点からも不自然かと思います。
学生の出身大学、国籍、性別、年齢などが多様なのはいいサインですので、どうせならそういうラボに行くべきです
1-3. 研究との相性が悪い
1-3-1. 急にレベル高すぎるラボに入ってしまう。
人によっては、いきなりトップ研究室に入るのは気を付けるべきかも知れません。向上心があることは良いことです。
しかしながら、中には「世界のトップの中のトップ」という研究室もあります。
例えば独立行政法人の研究所の中でもトップの研究室などでは、頭が良いことは前提条件で、極めて高いモチベーションが要求されます。
こういう場所にあなたが行っても通用しません、というわけではなく、今行くのは適切でないという場合もあります。
本当は博士課程でトレーニングした後にそういったラボに挑戦すれば通用したのに、いきなり行ったからドロップアウトしてしまった、というのはあまりにももったいない話です。
一方で今通用しないと思っているのが思い込みで、実は通用する場合もあるので難しい所ですが...。
1-3-2. 研究にやりがいを感じない
自分を発見するという意味では悪くないかもしれませんが、博士課程は人生の相当の時間とエネルギーを捧げないと終わりません。
できればやりがいを一番感じる研究に時間を注ぐべきです。
ここに気を付けよう→興味あることを因数分解しておく:
博士課程に興味を持った時点で、博士課程のコンテンツの何かしらに興味はあるわけです。
例えば:資格としての学位、プレゼン、科学、技術開発、好奇心、社会貢献、データ解析、論文作成能力、競争力、マネジメント。
などなど博士といっても色々な要素で構成されています。
自分が博士を構成するパーツの何に強く惹かれているのかよく分析しましょう。
そして大学院やラボを選ぶ際には、どれぐらい自分の興味のあることが出来るのか確認しておきましょう。
1-3-3. 研究の特性が性格と合わない。
研究といっても、日々行われる作業のウエイトが違うと、ライフスタイルも変わりますし、椅子に座っている時間、考えている時間、人と会話している時間も全然違ってきます。
研究の時間の感覚も領域によって異なります。
一年に2~3個のプロジェクトが完結する分野もあれば、一つの論文を仕上げるのに7年かかる分野もあります。
そういった場合に、テンポよく達成感を得ることで前に進むことのできるタイプと、どんなに長くてもじっくり取り組めるタイプでは向いている研究スタイルが全然違います。
博士課程で人生終了!就職できない結婚できないは本当か?
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