現在、僕は博士課程の最終年度に在籍しているのですが、「修士・博士課程の教育」に関して疑問に思っていることがあります。
しかし、大学院の修士・博士課程のカリキュラムでは、研究者としてのスキルの成長を促すような授業はありませんでした。
もしも運良く、指導力のある教授の研究室に配属されたのであれば、それほど心配はいらないかもしれません。
先日、文部科学省の大学院教育の方針に関わっている方(現役の教授)とお話する機会があり、「修士・博士課程のカリキュラムに、研究の進め方や論文の書き方に関する授業があれば良いと思うのですが。。。」と伝えてみました。
しかし、以下のような答えをいただきました。
© タイトル:ブラックジャックによろしく 著作者名: 佐藤秀峰 URL: http://mangaonweb.com/
「俺らの時代は見て盗んだんだけどね」と。。。
もちろん見て盗むのも一つの手ですが、自分の指導教授以外の研究の進め方も学ぶことができれば、参考になると思うのですが。。。
自分の大学院でも「研究の進め方や、やり方について学べる授業をやってください」と働きかけました。
© タイトル:ブラックジャックによろしく 著作者名: 佐藤秀峰 URL: http://mangaonweb.com/
しかし、「みんな研究のやり方は違うから」などの説明を受け、変化は起きませんでした。
たくさんの研究のやり方があるからこそ、たくさんの教授から研究スタイルを学べたら良いなと思うのですが。。。
指導教授の研究スタイルが学生の性格や強みにマッチングしていない場合、他の教授から研究の進め方などを学べたら視野が広がるのではないでしょうか。
このような状況に直面し、「研究者として成長する方法を自分で模索しないとヤバイ」ということに気づきました。
そう、博士課程では「研究」を教えてくれないのです。
研究の能力をなんとか自分で鍛えるトレーニング法はないのだろうか?と考え続ける博士課程でした。
しかし、分野によっては博士課程で論文一本書くだけでも立派かもしれません。
上達のスピードが遅くなりますよね。
そこで、思いついたことは、論文を書くために使う能力を小分けして、各能力を鍛えるということです。
A.研究テーマを遂行することで得られる知識
B.核となるデータを得られるまでの時間
C.成功する可能性
この3つを予測して、自分の状況に合うテーマを選ぶことがポイントだと思います。
自主トレ法1:「空想実験」
「空想実験」の工夫:
自主トレの工夫としては、空想実験のアイディアリストをストックしておくことです。
もしも後輩が研究テーマで困っていたら、自分のアイディアリストの中からいくつか提案して選んでもらうこともできます。
自分のアイディアを他の人がやってくれるという貴重な経験ができるかもしれません。
自主トレ法2:「発見を再発見」
1.最近、高く評価された論文を探す
2.その論文のどの部分が新しいのかを以下の観点から理解する
A.測定技術の進歩
B.新しい概念の提唱
C.過去の著名な仮説の証明
3.もし、BかCであれば、その論文とつながる、過去に提唱された説の中で最も重要な仮説を書いた人物を特定し、読んでみる
2.実験をする能力
しっかりと実験を遂行する能力は重要です。
キット化されている実験なら、プロトコール通りに手順を遂行できれば成功するはずです。
このとき、山中先生が教える3ないルールを意識することが大切だと思います。
実験からできるだけたくさんの知識を得るために、目的、コントロール、後片付けを心がけるようにします。
しかし「実験をする能力」で気をつけないといけないのは、いくら実験をやって綺麗な結果を出しても、論文のストーリーに入らない結果は使えないということです。
なので「どの実験をするのか?」という能力がここでは最重要だと思います。
他の研究者の論文や発表から学ぶのがオススメです。
自主トレ法1:「ケーススタディ」
5. Fig2を見て答え合わせ
6. 最後のFigまで続ける
「ケーススタディ」の工夫:
研究室やゼミで論文紹介用の論文を読むときなど、この自主トレ法が役立つと思います。
この自主トレをしながら論文を読むと、深い考察を含んだ発表ができると思います。
例えば、「自分なら実験Aを選んだけど、著者らが実験Bを選んだということは、サンプルXは実験Aと相性が悪いのかもしれない」などと、踏み込んだ説明ができます。
実際にこのような論文紹介をしたときは議論が活発になりました。
研究室に配属されたばかりで教授に良い印象を与えたいときや、がんばってることをアピールしたいときは、ぜひ「ケーススタディ」に挑戦してみてはどうでしょうか。
自主トレ法2:「アクティブ・リスニング」
Q = Question クエスチョン
H = Hypothesis 仮説
M = Method メソッド
R = Result 結果
C = Conclusion 結論
3.実験結果を解析する能力
分野によっては実験能力よりも「実験解析能力」のほうが重要な場合もあります。
最近は大量のデータがデータベースなどに存在しており、優れた解析能力があれば実験なんかしなくてもインパクトの高い研究ができます。
実際、Computational Neuroscience分野の友人は博士課程中、一度も実験をしていません。
既存のデータを新しい解析方法で解析することにより、革新的な結果を出しています。
僕はガチな生物系で時代に取り残されている気がしますが、少しずつ新しい解析法や統計法を学ぼうとしています。
自主トレ法:「データのこねくり回し」
1. 自分の興味あるもののデータを集める(もしくはデータベースから入手する)
2. あまり使ったことのない解析ソフトや手法で解析してみる
「データのこねくり回し」の工夫:
自分の中で改善したいことを計測することにより、楽しくデータ解析ができると思います。
僕はRというデータ解析ソフトの使い方を学びたかったので、自分の睡眠を改善するために「目覚めスッキリ度」と前日に食べたものなどを記録して解析しました。
Rに慣れるという意味では楽しく学ぶきっかけになりました。
データ解析についても以下のような様々な手法があります。
次元削減
線形モデル
ベイズ統計
ディープラーニング
いろいろな解析法を学ぶことは、きっと将来、役立つはずです。
僕よりもタヌキのほうが、いろいろな解析方法を研究に取り入れているので、おすすめの本を聞いてみました。
タヌキの研究に最も役立った本は「データ解析のための統計モデリング入門」だそうです。
4.実験結果をフィギュアとして創りあげる能力
いくら実験をしても、結果を論文に掲載できるクオリティのフィギュアにしないと論文は書けません。
全ての実験において、論文クオリティのフィギュアを創るのはハードルが高いですが、なんらかの形で視覚化することは重要だと思います。
しかし、いざ論文を書き上げる段階に入ると、ピシッとしたフィギュアが必要です。
できれば「Adobe Illustrator」、もしくは代用フリーソフトの「Inkscape」を使うと良いと思います。
この2つだと「Vector graphic」でフィギュアが創れるため、フィギュアを拡大してもピントがボケません。
多くのジャーナルが「Vector graphic」のフォーマットを推奨しています。
自主トレ法:「お絵かき」
1. 実際にFigureを作るソフトでいろんなものを描く
「お絵かき」の工夫:
この自主トレは、Figure作成ソフトに慣れることがポイントです。
このブログの絵のいくつかも「Inkscape」で創っています。
絵が描けるようになると、Figure作成のときに「Inkscape」を使うのがそれほど苦痛ではなくなります。
5.伝えたいことを文章として書く能力
研究結果の解釈や伝え方も含めて「研究」です。
文章力によって、フツーの研究がグッと光って見えることもありますし、せっかくのすごい研究でも魅力が半減してしまうこともあります。
研究のインパクトがちょっとくらい弱くても、文章力を鍛えて書き方を工夫することで、少しは点数を稼げるかもしれません。
自主トレ法1:「完コピ」
「完コピ」の工夫:
僕は村上春樹さんのエッセイ本、そして若林正恭さんの本を参考に練習したことがあります。
自主トレ法2:「楽しく書く」
「楽しく書く」工夫:
このブログは、僕にとって文章力を鍛えるトレーニングにもなっています。
人が反応するような言葉使い、文章の書き方などを考えるようになりました。
twitter Follow @kenkyustyle などの呟きも、文字制限の中でどれくらいインパクトのあることを言えるかの修行です。
すぐに反応がわかるので面白いです。
英語力の鍛え方はタヌキが詳しく解説しているので、参考にしてみてください。
6.フィギュアと文章を校正する能力
つまり「書くことは書き直すこと」ということです。
良いフィギュアや文章を一発で作ることができれば良いですよね。
でも実際は、校正を重ねることで少しずつ文章やフィギュアが洗練されていきます。
自主トレ法:「1日1文校正」
例:
適当にNature論文のIntroから文章を抜粋しました。
https://www.nature.com/articles/s41586-018-0614-0
オリジナル
う~む。ちょっとわかりにくい文章ですよね。
もし今ペンと紙が手元にある方は、この文章を校正してみてください。
オリジナルの意味が保てているかわかりませんが、英文としてはわかりやすくなったでしょうか。
文字数と文章が増えてしまいましたが、伝わりやすくするためには必要に思えました。
英文校正の練習には、次の5つを意識すると良いと思います。
1.そもそもその文章必要?
この5つのポイントは「On writing well」というwritingの本から学んだものです。
明確で伝わりやすい英文を書きたいと思っている方には、大変おすすめの本です。
英語脳をつくりたい方には↓↓
「1日1文校正」の工夫:
校正をするときには、音読をしてみると流れの悪い部分に気づきやすいです。
文章を読み上げるサイト(https://ttsreader.com/)を使って、客観的に文章を聞くことで、また違う印象を受けることもあります。
また、イメージを連想することも効果的です。
文章を読みながら、頭の中に映像を描きます。
映像の流れをチェックすることで、文章の流れを改善することもできます。
まとめ
挑戦してみたい自主トレはありましたでしょうか?
いつもやっていることにちょっと付け足せるような、手軽な自主トレから始めると長続きすると思います。
例えば、論文紹介をするときに「ケース・スタディ」として論文を読んでみたり、セミナーを聞くときにとりあえずノートに「Q、H、M、R、C」と書いてみたり。
このようなトレーニングを大学院や研究室が促してくれると良いのですが、現状そのような兆しはほぼありません。
ですので、天才でない方(まさに自分)は、地道に自主トレを続け、なんとか研究者としての成長を目指すしかないと思います。
この記事が、研究者として成長したいと思っている方の参考になれば嬉しいです。
一緒にがんばりましょう!
もしもあなたが実践している、もしくは以前実践したおすすめの自主トレ法などがありましたら、ぜひ教えてください。
ブログのコメントやtwitterで教えていただければ挑戦してみたいです!
今回はカメの投稿でした~。
院生の英語学習、節約、息抜きに、コスパ最高のサービスに関するレビュー記事を書いていますので、興味がある方はぜひ参考にしてください。
研究の進め方や論文の書き方が具体的に書かれていて、心理的につまずきやすいポイントにも触れているので、自分にとってはすごく参考になりました。